ウィリアム・A・ウィリアムズ

ウィリアム・A・ウィリアムズ（William Appleman Williams, 1921年6月12日 - 1990年3月5日）は、アメリカ合衆国の歴史学者であり、特にアメリカ外交史を専門としていました。彼は、冷戦史研究におけるニュー・レフト史学、修正主義学派の創始者として広く知られています。

生涯と学問的背景

ウィリアムズはアイオワ州で生まれ、アメリカ海軍兵学校を卒業後、第二次世界大戦に従軍しました。戦後、ウィスコンシン大学マディソン校で博士号を取得し、1957年から1968年まで同大学の歴史学部で教鞭を執りました。その後、オレゴン州立大学に移り、1986年に退職しました。

主な業績と影響

ウィリアムズの最も重要な著作の一つに『アメリカ外交の悲劇』（The Tragedy of American Diplomacy, 1958）があります。この著書において、彼はマルクス主義の影響を受けた分析を展開し、アメリカの対外政策の根底には、海外市場を求める「門戸開放」イデオロギーがあると主張しました。彼は、アメリカの建国以来続く膨張的資本主義を批判的に分析し、冷戦の発生原因を、当時の支配的な見解であったソ連の膨張ではなく、ヨーロッパ市場を求めるアメリカの非妥協的な膨張主義にあると指摘しました。この修正主義的な解釈は、当時アメリカ国内でベトナム戦争に対する懐疑が高まっていたこともあり、大きな反響を呼びました。

ウィリアムズは、この著作によって「ニュー・レフト史学」の代表的な論者として知られるようになり、彼の弟子たち、ウォルター・ラフィーバー、ロイド・ガードナー、トーマス・マコーミックらは「ウィスコンシン学派」と称されました。彼らは、ウィリアムズのテーゼを発展させ、アメリカ外交史研究に新たな視点を提供しました。しかし、ウィリアムズらの主張や分析手法は、正統主義派の研究者から多くの反論を受け、冷戦の起源をめぐる論争は一層活発化しました。

評価の変化

しかし、ソ連崩壊後に公開された公文書に基づく「脱修正主義（post-revisionism）」研究が進むと、「ニュー・レフト史学」は「廃棄された理論」として評価されるようになります。特に、ジョン・ルイス・ギャディスに代表される研究者たちは、ソ連の責任を重視する見解を主張しました。ウィスコンシン大学マディソン校のアメリカ外交史講座が、ギャディスの弟子であり、ニュー・レフト史学を厳しく批判した正統主義派のJeremi Suri教授に引き継がれたことは、脱修正主義の学術的勝利として捉えられています。

その他の影響

また、朝鮮戦争が勃発したのはアメリカと李承晩の南侵誘導のためだと主張したブルース・カミングスも「ニュー・レフト史学」の系譜に繋がるとされています。これは、ウィリアムズの思想が、単に冷戦史研究だけでなく、その後のアメリカ外交政策に関する議論にも影響を与えたことを示しています。

主な著書

ウィリアムズの著作は多岐にわたりますが、代表的なものとしては以下が挙げられます。

『アメリカ外交の悲劇』（The Tragedy of American Diplomacy, 1958）
『アメリカ史の輪郭』（The Contours of American History, 1961）
『アメリカ、キューバ、カストロ』（The United States, Cuba, and Castro: An Essay on the Dynamics of Revolution and the Dissolution of Empire, 1962）
『現代アメリカ帝国の根源』（The Roots of the Modern American Empire: A Study of the Growth and Shaping of Social Consciousness in a Marketplace Society, 1969）
* 『帝国としての生き方』（Empire as a Way of Life: An Essay on the Causes and Character of America's Present Predicament, Along with a Few Thoughts about an Alternative, 1980）

まとめ

ウィリアム・A・ウィリアムズは、アメリカの対外政策を批判的に分析し、冷戦史研究に新たな視点をもたらした重要な歴史学者です。彼の著作は、アメリカ史、特に外交史を学ぶ上で欠かせないものであり、現在でも多くの研究者に影響を与え続けています。

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