ウィリアム・K・バートン

ウィリアム・キニンモンド・バートン：近代日本の水道と写真技術の先駆者

ウィリアム・キニンモンド・バートン（William Kinninmond Burton, 1856年5月11日 - 1899年8月5日）は、スコットランド・エディンバラ生まれの技術者であり、写真家としても著名な人物です。日本では「W.K.バルトン」の名で知られ、日本の近代水道の基礎を築いた功績者として高く評価されています。

生い立ちと技術者としての出発

バートンは、法律家で文筆家のジョン・ヒル・バートンとカサリーン・イネスの間に生まれました。大学教育は受けていませんが、エディンバラのブラウン・ブラザーズ社で水道技術工の見習いとしてキャリアをスタートさせました。その後、叔父のコスモ・イネスを頼ってロンドンに移り、衛生保護協会の主任技師として活躍しました。この経験が、後の日本での水道事業への貢献につながっていきます。

日本へ：衛生工学の専門家として

バートンは、大学教育を受けていませんでしたが、永井久一郎との出会いがきっかけとなり、1887年に明治政府のお雇い外国人技師として来日しました。当時、コレラなどの流行病に苦しんでいた日本において、バートンの衛生工学の知識は非常に重要でした。内務省衛生局の顧問技師として、東京市の上下水道の基本計画に携わるとともに、帝国大学工科大学（現在の東京大学工学部）で衛生工学の講座を担当し、多くの優れた技術者を育成しました。バートンの設計は、実際の工事段階で大幅な変更を余儀なくされることもありましたが、東京、神戸、福岡、岡山などの都市の上下水道の基本調査に大きく貢献しました。

特に、下関市高尾浄水場は、バートンの基本プランに基づいて建設され、100年以上も使用され続けており、その施設の一部は登録有形文化財にもなっています。また、災害備蓄用飲料水のボトルには、バートンの顔が印刷されるなど、その功績は現代にも語り継がれています。さらに、バートンは凌雲閣の基本設計者でもありました。

写真家としての才能

バートンは、写真家としても優れた才能を持っていました。母方の祖父が写真愛好家であったことから、幼い頃からカメラや写真に親しみ、臭化ゼラチン乾板に関する著書や論文を発表するなど、写真技術の分野でも高い評価を得ていました。来日後も、日本の写真家である小川一真らと親交を深め、日本の写真文化の発展にも貢献しました。また、日本寫眞會の創立メンバーとしても活躍し、日本の写真史にその名を刻んでいます。

1888年の磐梯山噴火や1891年の濃尾地震といった大災害の際には、大学の依頼で被災地に赴き、惨状を撮影し、貴重な記録を残しました。

台湾での活動と突然の死

1896年、バートンは台湾総督府民政長官だった後藤新平の要請で、教え子の浜野弥四郎とともに台湾に渡り、公衆衛生向上のための調査に当たりました。台湾での水源調査中に風土病にかかり、1899年8月5日に43歳の若さで亡くなりました。帰国を目前にした突然の死は、多くの人に惜しまれました。バートンは東京の青山霊園に眠っています。

遺志を継ぐ教え子たち

バートンの死後、教え子の浜野弥四郎は、台湾での事業を継続し、基隆水道貯水池や台北水道、台南水道などを次々と完成させました。浜野は、恩師バートンの功績を世に留めるため、銅像を建立しようと尽力しましたが、戦時中に資材供出令により撤去されています。しかし、バートンの遺志は、彼の教え子たちによって確かに受け継がれ、後の台湾のインフラ整備に大きく貢献しました。

2006年には、バートン生誕150周年を記念して、実家であるクレイグ・ハウスに記念プレートが設置され、その功績は再評価されています。

交友関係

バートンの交流関係は多岐にわたり、小説家のアーサー・コナン・ドイルは幼少期にバートン家に預けられていました。バートンとドイルは、バートンが来日した後も親交があり、ドイルのシャーロック・ホームズシリーズに日本に関する正確な知識が登場するのは、バートンとの交流によるものだと言われています。また、夏目漱石らに英語を教えたジェームズ・マードックとは同郷で、共著もあります。バートンの幅広い交流関係は、彼の豊かな人間性を物語っています。

まとめ

ウィリアム・キニンモンド・バートンは、技術者、写真家として、日本と台湾の近代化に大きく貢献した人物です。彼の功績は、現代においても高く評価されており、その名は歴史に刻まれています。

もう一度検索