ウィルモット条項

ウィルモット条項とは

ウィルモット条項（英: Wilmot Proviso）は、19世紀半ばのアメリカにおいて、米墨戦争の結果としてメキシコから割譲された地域に奴隷制を拡大することを阻止しようとした重要な法案です。この条項は、奴隷制の存続を巡る南北間の激しい対立を浮き彫りにし、後の南北戦争の主要な原因の一つとなりました。

条項の概要

1846年、下院議員デイビッド・ウィルモットが、米墨戦争の解決交渉資金として200万ドルを割り当てる法案に修正条項としてこの提案を行いました。この条項は、メキシコから新たに獲得する領土においては奴隷制を禁止するというものでした。下院では可決されたものの、上院では否決され、最終的に成立することはありませんでした。その後も何度か再提案されましたが、その度に上院で否決されるか、または他の法案と合わせて否決されるなど、最終的な成立をみることはありませんでした。

条項成立の背景

1845年、アメリカはテキサス併合を強行しましたが、これが米墨戦争の引き金となりました。戦争が進むにつれて、アメリカが勝利した場合にメキシコからどの程度の領土を獲得するかが問題となり、同時に、獲得した領土で奴隷制をどう扱うかが大きな議論の焦点となりました。

当時、アメリカ国内では奴隷制を巡って大きな対立があり、二大政党である民主党とホイッグ党も、この問題に対して異なる立場をとっていました。民主党は奴隷制を伝統的な政治問題として扱い、急進的な意見を党内の問題に留めようとしていました。しかし、ジェームズ・ポーク大統領の政権下では、党内の不満が高まり、特に北部の民主党員は、テキサス併合や関税問題、さらにはオレゴン問題など、ポーク大統領の政策に対して不満を抱いていました。

一方、ホイッグ党も南部で支持を失っており、テキサス併合に対する曖昧な姿勢がその原因であると分析していました。党内には、米墨戦争での勝利と領土獲得が奴隷制問題を再燃させることを危惧する声があり、この問題が党を分裂させることを恐れていました。

条項の提案と議論

1846年8月、ポーク大統領は米墨戦争の最終解決に向けて200万ドルの予算を議会に要求しました。この時、民主党下院議員のウィルモットが、新たな領土での奴隷制を禁止する修正条項を提案しました。この提案は、北部の民主党議員やホイッグ党議員の支持を集め、下院を通過しましたが、上院では否決されました。その後も、1847年2月にも同様の条項が再提案され、下院では可決されたものの、上院で否決されるという、同じ経緯を辿りました。

ウィルモット条項に対する議論は、奴隷制を巡る南北の対立を激化させることになりました。南部では、この条項が奴隷制への直接的な攻撃と見なされ、不満が高まりました。また、上院では、ミズーリ協定の境界線を西に延長する提案や、南部議員による法案の棚上げ動議などが提案されましたが、いずれも否決されました。

その後の経過

1848年、米墨戦争を終結させるグアダルーペ・イダルゴ条約が提出されましたが、上院議員となったスティーブン・ダグラスらによって、ウィルモット条項を条約に付加する試みは失敗しました。ダグラスは、領土内における奴隷制の議論は時期尚早であると主張し、実際に領土を組織化する時に議論すべきだと主張しました。

この頃、民主党のルイス・カスが人民主権の概念を提唱しました。これは、領土内の住民が奴隷制を認めるかどうかを決定するという考え方で、ウィルモット条項に代わるものとして注目されました。

ウィルモット条項が成立しなかったことで、奴隷制に関する対立はさらに激化しました。北部では、奴隷制に反対する自由土地党が結成され、南部では、ウィルモット条項に反発する動きが強まりました。

1850年には、この対立を一時的に収めるための1850年妥協が成立しましたが、この妥協も根本的な問題を解決するには至らず、南北間の対立は、後の南北戦争へと繋がっていきました。

ウィルモット条項の影響

ウィルモット条項は、アメリカの歴史において重要な転換点となりました。この条項は、奴隷制問題を政治の中心に引き上げ、南北間の亀裂を深め、最終的に南北戦争という悲劇的な結末を招いた要因の一つとなりました。

この条項が示唆したように、奴隷制は単なる経済問題ではなく、道徳や人権に関わる根源的な問題であり、この問題を巡る対立は、アメリカという国家を二分することになったのです。

参考文献

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外部リンク

* Wilmot Proviso

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