ウィンチェスターM1897

ウィンチェスターM1897 (Winchester Model 1897)

ウィンチェスターM1897は、アメリカのウィンチェスター・リピーティングアームズ社が1897年から1957年にかけて製造したポンプアクション式散弾銃です。モデル97、M97、あるいは「トレンチガン」という通称でも広く知られています。

著名な銃器設計家であるジョン・ブローニング技師が設計したM1893の改良型として誕生しました。M1897は、特徴的な外装式ハンマーと銃身下部に配置されたチューブ型弾倉を備えており、その製造期間は60年に及び、累計生産数は100万丁を超える記録的な成功を収めました。

M1893からの進化

M1897は、先代モデルであるM1893で明らかになった幾つかの課題を克服するために改良されました。主な改善点は以下の通りです。

機関部の強化: フレーム構造が強化され、当時普及し始めていた無煙火薬を使用する高圧な12ゲージ弾（2・3/4インチおよび2・5/8インチ）に対応できるようになりました。
排莢方式の変更: 従来下方だった排莢口が機関部の側面に移されました。これによりフレーム強度が向上したほか、長い実包を使用した際の弾詰まりのリスクも低減されました。
アクションスライドロック: 発砲する前にスライドハンドルをわずかに前進させることでアクションスライドロックが解除される機構が追加されました。射撃時には反動によってロックが解除されるため素早い次弾装填が可能ですが、最初の射撃前など反動がない場合は手動での解除が必要です。
シェルガイド: 稼働式のシェルガイドがキャリアブロック右側に設置され、装填時に銃を傾けても実包が脱落しにくくなりました。
銃床の形状: 銃床が延長され、ドロップ寸（銃床の上下の傾き）が小さくなり、射撃時の安定性が向上しました。
スライドロックによる安全性向上: 新たに搭載されたスライドロック機構は一種の安全装置として機能し、ボルトが完全に閉鎖され、撃針が適切な位置にあるまで撃針が雷管に接触しないようにすることで、暴発などの危険を防ぎます。また、射撃の中止時にはスリーブの不要な作動を防ぎ、安全性を高めています。

これらの改良、特に後の多くの散弾銃で採用されることになるテイクダウン構造（銃身の分離機能）を散弾銃として初めて実用化したM1897は、堅牢性と信頼性を兼ね備え、アメリカ国内で絶大な人気を獲得しただけでなく、世界中に輸出され、現代のポンプアクション散弾銃の設計に大きな影響を与えました。

特徴と機能

M1897は、外装式ハンマーを持つポンプアクション式散弾銃に分類されますが、最も特筆すべき機能の一つは、引き金とハンマーの間にディスコネクター（連射防止装置）が存在しないことです。この構造により、トリガーを引きっぱなしにした状態でフォアエンドを操作するだけで、装填と同時にハンマーがコッキング・リリースされ連続して発射が可能となる「スラムファイア」と呼ばれる速射が行えます。

標準的なモデルの口径は12ゲージ（銃身長30インチ）と16ゲージ（銃身長28インチ）ですが、特注により20インチから36インチまでの多様な銃身長が選択可能でした。使用できる実包は2・3/4インチまたは2・5/8インチ弾に限定されます。標準的なチューブ型弾倉には5発の実包が収容でき、薬室と合わせると合計6発を装填可能でした。ただし、グレードによっては装弾数も異なります。

歴史と使用

M1897は設計当初から民間市場で人気でしたが、その存在感を大きく高めたのは第一次世界大戦でした。アメリカ軍は、塹壕戦における近距離戦闘で求められる強大な火力を提供できる装備として、M1897に着目します。

軍の要望に応える形で開発されたのが、短銃身で取り回しが良く、過熱を防ぐ放熱板とM1917銃剣用の着剣装置を備えた「トレンチガン」グレードです。狭い塹壕内で、00Bバックショット弾（大粒の散弾）を発射するトレンチガンは、敵兵にとって極めて大きな脅威となりました。また、一部の兵士は、飛来する敵の手榴弾を空中で撃破する特殊任務にもM1897を使用しました。

前述のスラムファイア機能と6発の装弾数は、近接戦闘においてM1897を非常に強力な武器とし、「トレンチスイーパー」という俗称で恐れられました。その圧倒的な威力に対し、ドイツ帝国政府は1918年9月19日、散弾銃の使用がハーグ陸戦条約における「不必要な苦痛を与える兵器」に該当するとして、外交ルートを通じてアメリカに抗議を行いましたが、これはアメリカ側によって速やかに却下されました。この抗議の却下を受けて、ドイツ側がM1897で武装した米軍捕虜に対し厳罰を課す方針を示し、報復的な措置が取られたという記録も残っています。

第一次世界大戦後も、M1897は様々な用途で活躍しました。短銃身モデルは「ライオットガン」として販売され、全米各地の警察署に配備されたほか、貴重品を運ぶアメリカン・エキスプレスのメッセンジャーが自衛用に携行したことでも知られています。ライオットガンは、トレンチガンに見られた着剣装置、放熱板、負革用の吊環は備えていませんでした。

M1897の生産は1957年まで続きましたが、その後はハンマー内蔵型のウィンチェスターM1912やレミントンM870といった、より洗練された後継モデルに主力の座を譲っていきました。しかし、その堅牢な構造と独特の機能により、現在でも民間市場で広く流通しており、その影響力は続いています。特に、中国のノリンコ社は、現在でも外見や内部機構までオリジナルに忠実なM1897のレプリカ（YL-1897）を製造・販売しており、この伝説的な散弾銃が今なお多くの人々に愛され続けていることを示しています。

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