ウィントン・ケリー

ウィントン・ケリー：洗練されたスイング感と卓越した才能のジャズピアニスト

ウィントン・ケリー (1931年12月2日 - 1971年4月12日) は、アメリカ合衆国を代表するジャズピアニストの一人です。ニューヨークのブルックリンでジャマイカ移民の息子として生まれ、カナダのトロントで39歳の若さで夭逝しました。彼の音楽は、洗練されたスイング感と卓越した演奏技術、そして魅力的なソロで知られ、多くのジャズミュージシャンに多大な影響を与えました。

華麗なるキャリアの歩み

ティーンエイジャーの頃からR&Bグループで演奏活動を始め、早くからプロとしてのキャリアを歩み始めます。その後、レイ・エイブラムス、セシル・ペイン、ダイナ・ワシントン、そしてディジー・ガレスピーといった巨匠たちと共演を重ね、経験を積んでいきました。しかし、ケリーの名を世界に知らしめたのは、1959年から1963年にかけてマイルス・デイヴィスのクインテットに参加した時期でしょう。

マイルス・デイヴィスの名盤『カインド・オブ・ブルー』では、ビル・エヴァンスに代わって「フレディ・フリーローダー」に参加。さらにジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』では、「ネイマ」でトミー・フラナガンに代わり演奏しています。マイルス・デイヴィスはケリーの演奏を、レッド・ガーランドとビル・エヴァンスの融合と評しました。この評は、ケリーの音楽性を的確に表しています。彼はガーランドのような力強いリズム感を基盤としながらも、エヴァンスのような抑制の効いた繊細な表現で演奏したのです。

多くのジャズピアニストが、ケリーを最もスイングするピアニストと評価しています。彼の8分音符の演奏を分析すると、そのスイング感が実に幅広く、変化に富んでいることがわかります。時には伝統的なスイングよりもストレートな演奏を聴かせ、ビートの「オントップ」で演奏する傾向がありました。初期のジャズピアニストに見られた「レイドバック」という演奏スタイルを、彼は比較的少なかったのです。また、明確なスタッカートで均整のとれた8分音符のラインを刻むのが特徴で、このスタイルは後のマッコイ・タイナー、チック・コリア、ハービー・ハンコックといったピアニストに大きな影響を与えました。

素晴らしい伴奏者としてだけでなく、ケリーは個性的なソリストとしても高く評価されています。1951年にはブルーノートで自身のトリオでの録音を行い、その後もダイナ・ワシントン、ディジー・ガレスピー、レスター・ヤングといった多くのジャズ界のレジェンドと共演しました。兵役後も、ダイナ・ワシントン、チャールズ・ミンガス、ディジー・ガレスピー・ビッグバンドといった様々なアーティストと活動を続けましたが、マイルス・デイヴィスとの期間が最も有名です。

マイルスとの共演では、『カインド・オブ・ブルー』『ブラックホークのマイルス・デイヴィス』『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』といったジャズ史に残る名盤をレコーディングしました。その後、自身のトリオを結成するためにデイヴィスのバンドを離れ、ポール・チェンバース（ベース）、ジミー・コブ（ドラムス）という素晴らしいリズムセクションとともに活動を続けます。このトリオは、ウェス・モンゴメリーとの共演でも素晴らしい演奏を残しました。

音楽と私生活

ケリーはブルーノート、リバーサイド、ヴィージェイ、ヴァーヴ、マイルストーンといったレーベルから数多くのリーダーアルバムを発表し、その豊かな音楽性を後世に残しました。1963年にはパートナーのアンとの間に娘トレイシーが誕生し、彼のアルバム『カミン・イン・ザ・バック・ドア』に収録されている「リトル・トレイシー」は、この娘に捧げられた曲です。現在、トレイシー・マティサックとしてフィラデルフィアのテレビパーソナリティを務めています。

また、興味深いのは、1980～90年代にマイルス・デイヴィスと共演したベーシスト、マーカス・ミラーがケリーのいとこの子供であること、そしてピアニストのエリス・マルサリスがケリーに敬意を表して息子をウィントンと名付けたこと（その息子は後に有名なトランペット奏者ウィントン・マルサリスになります）です。

1971年、てんかんの発作により、惜しまれつつも39歳という若さでこの世を去りました。しかし、彼の残した音楽は、現在でも多くのジャズファンを魅了し続けており、ジャズ史に輝く一人の巨匠として、その名は永遠に語り継がれるでしょう。

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