ウィ・キャント・ダンス

『ウィ・キャント・ダンス』（We Can't Dance）は、1991年にイギリスのロックバンド、ジェネシスが世に送り出したスタジオ・アルバムです。この作品は、長年バンドのドラマー兼ボーカリストを務めたフィル・コリンズが、この時点でのジェネシスを離れる前の最後のスタジオ作品となりました。

バンドの状況と作品の位置づけ

1980年代以降、ジェネシスは世界的な音楽シーンにおいて、揺るぎないスーパーグループとしての地位を確立していました。特に母国イギリスでは、文字通り国民的な人気を誇るバンドへと成長。彼らが手がける作品は次々と大ヒットを記録し、その多くが全英チャートの首位を獲得するという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。この成功は、リードボーカルを務めるフィル・コリンズのソロ活動においても同様に見られ、さらにはかつてバンドを率いたピーター・ガブリエルもまた、同等の商業的・批評的な成功を収めていました。そうした状況下で発表された本作は、ジェネシスが迎えた最盛期を締めくくる記念碑的な作品として位置づけられています。

サウンドの変化と楽曲制作

本作において、ジェネシスは1980年代のアルバム群、具体的には『デューク』(1980年)から『インヴィジブル・タッチ』(1986年)にかけて見られた、より商業的なポップサウンドへの傾倒から一転し、かつてのバンドが持っていたプログレッシブ・ロックの要素を彷彿とさせる、深みのあるサウンドへと回帰しました。これにより、彼らはポップな側面だけでなく、音楽的な探求心も失っていないことを示しました。収録されている全ての楽曲は、トニー・バンクス（キーボード）、マイク・ラザフォード（ギター、ベース）、フィル・コリンズ（ボーカル、ドラムス他）という当時のメンバー3人の共作としてクレジットされています。

収録曲の多様性

アルバム収録曲には、「ノー・サン・オブ・マイン」や「テル・ミー・ホワイ」のように、現代社会や人間関係に対する示唆に富んだメッセージを持つ内省的な楽曲がある一方、「ジーザス・ヒー・ノウズ・ミー」や、皮肉を込めた歌詞とキャッチーなメロディが特徴の「アイ・キャント・ダンス」といった、より耳馴染みの良いポップチューンも含まれており、ジェネシスの多岐にわたる音楽性が示されています。特にこれらのポップな楽曲のプロモーション・ビデオでは、メンバー自身が出演し、ユーモア溢れるコミカルな演出が用いられ、視覚的なインパクトも与えました。

商業的成功

『ウィ・キャント・ダンス』は世界各国で大きな商業的成功を収めました。特に本国イギリスでは、アルバムチャートで首位を獲得しただけでなく、バンドにとって自己最高の売上を記録する快挙となりました。アメリカでもBillboard 200チャートで最高4位を記録しています。

本作からシングルカットされた複数の楽曲も、アルバムと同様に大きな成功を収めました。代表的なシングルとしては、「アイ・キャント・ダンス」がイギリスとアメリカの両国でシングルチャート最高7位を記録。「ノー・サン・オブ・マイン」は全英シングルチャートで6位、全米シングルチャートで12位を記録するなど、彼らの変わらぬ人気の高さを証明しました。

参加ミュージシャン

トニー・バンクス - キーボード
フィル・コリンズ - ドラムス、パーカッション、ボーカル、ドラムマシン
* マイク・ラザフォード - ギター、ベース

収録曲リスト

全曲ともメンバー3人の共作です。

1. ノー・サン・オブ・マイン ("No Son Of Mine") - 6:40
2. ジーザス・ヒー・ノウズ・ミー ("Jesus He Knows Me") - 4:16
3. ドライヴィング・ザ・ラスト・スパイク ("Driving The Last Spike") - 10:08
4. アイ・キャント・ダンス ("I Can't Dance") - 4:01
5. ネヴァー・ア・タイム ("Never A Time") - 3:50
6. ドリーミング・ホワイル・ユー・スリープ ("Dreaming While You Sleep") - 7:16
7. テル・ミー・ホワイ ("Tell Me Why") - 4:58
8. リヴィング・フォーエヴァー ("Living Forever") - 5:41
9. ホールド・オン・マイ・ハート ("Hold On My Heart") - 4:37
10. ウェイ・オブ・ザ・ワールド ("Way Of The World") - 5:39
11. シンス・アイ・ロスト・ユー ("Since I Lost You") - 4:09
12. フェイディング・ライツ ("Fading Lights") - 10:26

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