ウィークボソン

ウィークボソンとは

ウィークボソン（weak boson）は、素粒子物理学における弱い相互作用を媒介する素粒子です。別名、弱ボソンとも呼ばれます。

概要

弱い相互作用は、ベータ崩壊に代表される、粒子の種類を変化させる相互作用です。ウィークボソンには、電荷を持つWボソン（W⁺, W⁻）と、電荷を持たないZボソンの2種類が存在します。

Wボソン: 電荷±1を持ち、W⁺とW⁻は互いに反粒子の関係にあります。陽子の約80倍の質量を持ちます。
Zボソン: 電荷0で、反粒子は同じZボソンです。陽子の約90倍の質量を持ちます。

これらのボソンはスピン1のベクトルボソンであり、非常に大きな質量を持つため、ごく短時間で別の粒子に崩壊します。

歴史

ウィークボソンの存在は、1968年に理論的に予言されました。その後、1983年に欧州合同原子核研究所（CERN）において、スーパー陽子シンクロトロン（SPS）を用いてその存在が実験的に確認されました。

この発見は、素粒子物理学における大きな進展であり、グラショウ、サラム、ワインバーグは、この業績により1979年にノーベル物理学賞を受賞しました。

理論的背景

ベータ崩壊は、当初4つのフェルミオンが直接相互作用するフェルミ相互作用として記述されていました。しかし、湯川秀樹は、この反応が2段階で起きていると考え、それぞれの反応に2つのフェルミオンと1つのボソンが関わる湯川相互作用を提唱しました。

シュウィンガーは、弱い相互作用と電磁相互作用の共通性に着目し、両者に関係があると考えました。彼はWボソンと光子を合わせてSU(2)の三重項とする模型を考えましたが、この模型にはWボソンの質量に関する問題点がありました。

グラショウは、対称性をSU(2)×U(1)に拡張する必要性に気づき、ワインバーグとサラムは、ヒッグス機構により対称性が自発的に破れて質量を獲得するという理論を提唱しました。

この理論により、Zボソンの存在と、Zボソンが関わる中性カレントという、当時未知の相互作用が予言されました。

電弱統一理論

ワインバーグとサラムによる理論は、電磁相互作用と弱い相互作用を統一する電弱統一理論の基礎となりました。この理論は、ウィークボソンの存在を予言し、その性質を記述することに成功しました。

WボソンとZボソンの質量は、CERNの大型電子陽電子衝突型加速器（LEP）によって精度良く測定されており、電弱対称性が破れるエネルギースケール（ウィークスケール、約100GeV）における量子補正の程度は、LEPによる精密測定から厳しく制限されています。

これらの測定結果は、素粒子模型を構築する上での重要な指針となっています。

まとめ

ウィークボソンは、弱い相互作用を媒介する重要な素粒子であり、その発見と性質の研究は、素粒子物理学の発展に大きく貢献しました。電弱統一理論の検証や、ヒッグス機構による質量の起源の解明など、現代物理学の重要なテーマと深く関わっています。

参考文献

S. L. Glashow (1961). “Partial Symmetries of Weak Interactions”. Nucl. Phys. 22: 579.
S. Weinberg (1967). “A Model of Leptons”. Phys. Rev. Lett. 19: 1264.
中村誠太郎『現代物理学の世界』講談社〈講談社学術文庫〉、1988年。ISBN 978-4-06-158849-3。
南部陽一郎、他『大学院素粒子物理１』講談社、1997年。ISBN 4-06-153224-3。

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