ウェルガン

ウェルガン：特殊作戦執行部が生んだ幻の短機関銃

第二次世界大戦下、イギリスの特殊作戦執行部（SOE）は、ヨーロッパ各地の抵抗運動を支援するため、効果的な武器を必要としていました。近距離戦闘に適し、迅速な射撃と扱いやすさを兼ね備え、しかも容易に整備できる武器が求められたのです。

当初、SOEはイギリス軍制式採用だったステンガンに着目しました。しかし、ステンガンはコスト削減を優先した結果、品質が低く、頻繁な故障や暴発事故を起こすなど、信頼性に欠ける点が問題視されました。そこでSOEは、より高性能で信頼性の高い武器の開発に着手します。

開発の経緯と課題

1942年初頭、SOEの研究機関であるステーションIXは、新たな短機関銃の開発に着手しました。すでに「ノームガン」と呼ばれる試作銃が存在しましたが、高価で大量生産には向かないと判断されました。

そこで、F・T・ブリッジマンをリーダーとするチームが、より安価で大量生産可能な武器の開発に取り組みました。バーミンガム・スモール・アームズなどの企業も開発に協力し、1943年初頭には新型短機関銃「ウェルガン」の量産が許可されました。

試験では、ウェルガンはステンガンよりも高い精度と使い勝手を示しましたが、泥や砂などの悪条件下では信頼性が低いという課題が判明しました。これは、初期モデルの公差が小さすぎたことが原因でした。この問題は量産モデルで公差を見直すことで解決されましたが、それでもステンガンMk.IVの大量生産が決定され、ウェルガンは制式採用には至りませんでした。その理由は明確にはされていません。

ウェルガンの設計と性能

ウェルガンは、一般的なブローバック方式を採用し、9x19mmパラベラム弾を使用しました。これは枢軸国軍も使用していた弾薬であり、抵抗運動にとって入手しやすいというメリットがありました。

ステンガンと同じ32連発の箱型弾倉を使用するものの、装填方法は下方から垂直に行う点が異なっています。また、ボルト後端を直接引っ張るコッキング方式を採用し、コッキングハンドルは省略されました。

折り畳み式の銃床を備え、折り畳むと全長が短縮されるため携行や隠匿に適していました。木製ピストルグリップとフォアグリップを備え、射撃精度とバランスの向上を図っていました。

ウェルガンという名称の由来

「ウェル」という接頭辞は、ステーションIXの所在地であるウェリン・ガーデン・シティに由来します。ステーションIXで開発された他の兵器にも同様の接頭辞が付けられていました。

実戦での運用と課題

SOEエージェントの一人であるピーター・ケンプは、アルバニアへの任務でウェルガンを携行していましたが、初使用時に弾詰まりが発生しました。これは、銃工による整備ミスが原因だとされています。このエピソードは、ウェルガンが実戦配備されたとしても、整備体制の不備が問題となる可能性を示唆しています。

まとめ：幻の短機関銃

ウェルガンは、高い精度と操作性を備えた優れた短機関銃でしたが、様々な要因から制式採用には至りませんでした。その存在は、SOEの武器開発における試行錯誤と、実戦での運用における課題を浮き彫りにする貴重な事例となっています。開発に携わった人々の努力と、採用に至らなかった経緯は、歴史の影に隠された興味深い物語として、今なお人々の関心を集めています。

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