特殊作戦執行部

特殊作戦執行部(SOE): ヨーロッパを燃え上がらせた影の軍隊

第二次世界大戦下のイギリスにおいて、ナチス・ドイツとその同盟国に対抗するため、極秘裏に設立された組織、それが特殊作戦執行部(SOE)です。1940年7月22日、戦時経済相ヒュー・ダルトンによって正式に発足したSOEは、ヨーロッパ各地における諜報活動、秘密工作、特殊作戦、レジスタンス支援などを主な任務としていました。その存在は極秘裏に保たれ、「ベイカー街遊撃隊」や「チャーチルの秘密軍」など、様々な通称で呼ばれていました。

歴史

SOEは、戦争勃発前に存在していた3つの秘密組織、プロパガンダ機関EH課、[秘密情報部]のセクションD、戦争省のMI Rを統合する形で誕生しました。これら3組織は活動内容に重複があり、リソースも不足していたことから、統合の必要性が認識されていました。

セクションDとMI Rの統合は、1940年6月13日、チャーチル首相の指示を受けたハンキーによって開始され、7月1日の閣僚会議を経て、7月22日にSOEが正式発足しました。ダルトンはアイルランド独立戦争中のIRAをモデルとして、チャーチルは「ヨーロッパを燃え上がらせろ」と命じたと言われています。統合後、MI Rの不正規戦装備開発部門であるMI R(C)はMD1と改称され、SOEから独立しました。

組織と指揮

SOEの組織構造は、戦争の進行に伴い変化しました。当初はプロパガンダ、作戦執行、調査研究の3部局でしたが、後に調査研究部局は作戦執行部局に統合され、プロパガンダ部門は政治戦執行部(PWE)として独立しました。作戦執行部局の下には、各国を担当するセクションが設置され、フランスには常に6つ以上のセクションが置かれていました。特殊作戦用装備の開発・調達は科学技術部長が担当しました。

SOE部長は「CD」と呼ばれ、初代部長フランク・ネルソン、その後任にチャールズ・ジョセリン・ハンブロが就任しました。ハンブロはSOEの独立性を主張しましたが、1943年にコリン・マクヴェイン・ガビンズに交代しました。ガビンズはIRAの戦訓をSOEの活動に取り入れました。SOEは評議会を設けて組織運営を行い、複数の現地司令部も設置しました。カイロ本部(SO(M))、アルジェの南フランス作戦支部(マシンガム)、英領インドのインド任務部(後にフォース136)、ニューヨークのイギリス安全保障調整局などがありました。

他機関との関係

SOEは、他の機関との関係は必ずしも良好ではありませんでした。合同作戦司令部とは協力関係にありましたが、イギリス空軍や海軍とはしばしば衝突しました。特に空軍は、SOEの作戦に航空機を割り当てることに強い反発を示しました。外務省とも対立し、特に情報収集を主としたSISとは頻繁に衝突しました。しかし、大戦末期には連合軍司令部と協力関係を築きました。

解散

大戦末期、SOEの維持を主張する戦時経済相パルマーに対し、外務大臣イーデンはSOEを外交省の指揮下に置くことを主張しました。パルマーはこれに強く反発し、チャーチル首相の退任後、新首相アトリーはSOEの活動を終了させました。1946年1月15日、SOEは正式に解散されました。一部の職員はMI6の特殊作戦部門に移りましたが、大部分は元の職場に戻りました。

所在地とエージェント

SOEは、訓練、研究、指揮のために多くの施設を保有していました。ロンドン本部はベイカー街64番地に置かれ、周辺の建物もSOEによって使用されていました。武器や特殊機材の開発はザ・ファース(MD1本部)、ステーションIX、ステーションXIIなどで行われました。訓練施設は、ギルフォード、アリセグ、ボーリュなどにありました。アリセグではフェアバーン・サイクスが白兵戦訓練を担当していました。

SOEのエージェントは軍人だけでなく、様々な経歴の人物がいました。多様な人材が採用され、女性エージェントも多数活躍しました。エージェントには、潜入国の文化・言語の知識、多重国籍者などが重視されました。脱走兵や被占領国出身者なども採用されました。SOEは、活動方針として、必要であれば現代社会の慣習を無視することを定めていました。そのため、同性愛者、犯罪者、共産主義者なども採用されました。

通信手段

SOEは、無線通信を主な連絡手段としていました。当初はSISの通信基地を使用していましたが、後に独自の通信基地を設置しました。BBCの放送も、暗号通信に使用されました。他に、郵便、電話、通信員なども使用されましたが、それぞれの危険性と限界もありました。

装備

SOEは、ステーションIXで開発された消音火器、ステン短機関銃、フェアバーン・サイクス戦闘ナイフなどを採用しました。サボタージュ用には、リムペットマイン、プラスチック爆弾、偽装焼夷弾などを使用しました。小型潜水艇の開発も行われましたが、実戦での成功例は少なかったです。また、カルトロップやクロスボウなどの前時代的な装備も使用していました。

輸送手段

作戦地域への潜入には、航空機と船舶が使用されました。航空機にはライサンダー連絡機、ハドソン輸送機、爆撃機、C-47輸送機などが使用されました。装備はコンテナに収納してパラシュート投下され、ウェルバイクと呼ばれる折りたたみ式オートバイも開発されました。航空機の誘導には、レベッカ/エウレカ応答式レーダーやSフォンなどが使用されました。海上輸送には漁船やカイークなどが使用されました。

各国での作戦

SOEは、フランス、ポーランド、ドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、ユーゴスラビア、ハンガリー、ギリシャ、クレタ島、アルバニア、チェコスロバキア、ノルウェー、デンマーク、ルーマニアなどで作戦を行いました。各国の状況に合わせて作戦内容や協力対象は異なっていました。フランスでは、FセクションとRFセクションが中心となり、多くの女性エージェントが活躍しました。ポーランドではチホチェムニの訓練を支援し、ワルシャワ蜂起にも関与しました。ドイツでは、フォックスレイ作戦やペリウィッグ作戦など、大胆な作戦が計画されました。オランダでは「イギリスのゲーム」と呼ばれる防諜作戦により多くのエージェントが捕らえられました。

SOEに対する評価

SOEは、その秘密裏の活動と大胆な作戦によって、ナチス・ドイツとその同盟国に大きな損害を与えました。しかし、他機関との関係や作戦の失敗などもありました。SOEの戦術や技術は、現代のテロ組織にも影響を与えていると指摘されています。

参考文献

(ここに参考文献リストを挿入)

もう一度検索