ウェルケラエの戦い

ウェルケッラエの戦い

ウェルケッラエの戦いは、紀元前101年に現在のイタリア北部、ガッリア・キサルピーナで発生した、キンブリ・テウトニ戦争におけるローマ軍とキンブリ族との最終的な衝突です。この長きにわたる戦争は、ゲルマン系のキンブリ族やテウトネス族などが南下し、共和政ローマに壊滅的な打撃を与えてきたものでしたが、この戦いと直前の紀元前102年に発生したアクアエ・セクスティアエの戦いにおけるローマ軍の連続した勝利により、終結を迎えました。ローマ軍を率いたガイウス・マリウスは、これらの歴史的な勝利によって民衆から絶大な支持を受ける英雄となります。

戦いの背景と交渉

ウェルケッラエでの決戦に先立ち、ガイウス・マリウスはガッリア南部のアクアエ・セクスティアエにおいて、ローマへ侵攻しようとしていたテウトネス族とアンブロネス族を一方的に撃破し、その勢力をほぼ根絶していました。プルタルコスなどの歴史家が記すところによれば、アクアエ・セクスティアエでの大勝の後、マリウスは共同指揮官であったクィントゥス・ルタティウス・カトゥルスが率いていた部隊と、ロダヌス川沿いに展開していた別の軍勢を呼び戻し、キンブリ族との対決に備えました。

テウトネス族の壊滅を知らなかったキンブリ族は、未だ優位に立っていると考え、ローマに対し彼ら自身と「その兄弟」のために土地を明け渡すよう要求する使者をマリウスのもとへ送りました。マリウスが「兄弟とは誰か」と尋ね、キンブリ族がテウトネス族のことだと答えると、マリウスは彼らの滅亡を告げました。キンブリ族はこれに衝撃を受けますが、王ボイオリクスは護衛を連れてマリウスの陣営を訪れ、雌雄を決する決戦の場を定めることを提案します。個別の決闘ではなく、軍隊同士の大会戦という形式はローマの伝統的な合戦様式ではありませんでしたが、マリウスはこの提案を受け入れました。両軍は、パドゥス川（ポー川）上流にあるウェルケッラエという平原で、三日後に相対することを取り決めました。

戦闘の経過

マリウスはウェルケッラエ平原を見通しの良い決戦場として選択しました。古代の歴史家テオドール・モムゼンによれば、この地はかつてハンニバルがローマ軍と戦った古戦場であったともされます。ローマ軍の陣形は、カトゥルス指揮下の約2万300名の古参兵団を中央に配置し、ロダヌス川から呼び戻した約3万2000名の精鋭部隊をその両翼に展開させるものでした。大規模な会戦においては両翼の動きが決定的な役割を果たすと考えられていたため、中央に配置されたカトゥルスやその幕僚であったルキウス・コルネリウス・スッラらは、主導権がマリウスに握られたことに不満を抱いたと伝えられています。

戦闘が開始されると、見通しの良い平原という地の利はローマ軍に有利に働き、特に騎兵隊はキンブリ族の騎馬部隊を圧倒しました。しかし、戦いが進むにつれて発生した激しい砂塵が視界を奪い、ローマ軍の両翼はキンブリ軍を大きく迂回しすぎてしまいました。結果として、戦闘は中央の部隊がキンブリ族の猛攻を支える形での乱戦となりました。

キンブリ族は寒冷な土地の出身であり、地中海沿岸部の夏の暑さに慣れていませんでした。真夏の太陽が照りつける中で、彼らは次第に体力を消耗していきます。一方、ローマ軍は優れた装備、日頃の厳しい訓練によって培われた練度、そして粘り強い規律をもって戦いました。次第にローマ軍が優位に立ち、キンブリ軍を押し崩していきました。

結果とその影響

長時間に及ぶ激しい戦いの末、キンブリ軍は次第に劣勢に追い込まれました。キンブリ軍の最後の抵抗も崩れ、王ボイオリクスが戦場で討ち取られると、全軍は総崩れとなりました。ローマ軍の猛追によって、キンブリ族の軍勢はほぼ壊滅状態に陥ります。

家族と共に移動していたキンブリ族の習俗から、多くの女性や子供も戦場に同伴していました。自軍の壊滅を悟った一部の女性たちは、我が子を手にかけた後に自らも命を絶つという悲劇的な最期を遂げました。その凄惨な光景は、長くローマ人の記憶に刻まれたと言われています。戦いの生き残りの大半は奴隷として売却され、過酷な運命を強いられることになります。

このウェルケッラエの勝利、そしてアクアエ・セクスティアエでの勝利により、ローマを脅かしていたキンブリ族、テウトネス族、アンブロネス族といったゲルマン系の大規模な部族の勢力は歴史上から事実上消滅しました。他に南下を窺っていたゲルマン勢力もローマの強大さを恐れ、故郷へと引き返したため、長期にわたり共和政ローマを揺るがした存亡の危機はついに解決されたのです。

ローマへと帰還したガイウス・マリウスは、捕虜としたテウトネス族の王テウトボドをフォロ・ロマーノで処刑した後、盛大な凱旋式を執り行いました。この勝利により彼の権威は頂点に達し、ローマ市民は彼を『ロムルスやカミルスに並ぶ第三の建国者』と称え、神々に捧げるのと同様の供物をマリウスにも捧げたと言われています。ウェルケッラエの戦いは、政争や経済的混乱によって対外戦争で敗北を重ねていたローマ共和国に一時的な安定をもたらし、マリウスは救国の英雄として尊敬を集めました。

しかし、この勝利の背景にあったマリウスによる軍制改革、特に無産市民を正規兵として登用したことは、兵士の将軍への忠誠心を高める一方で、従来のローマ市民とイタリア同盟都市の市民権を巡る対立を激化させ、後に同盟市戦争として結実することになる政治的・社会的な緊張を高める遠因ともなりました。

ウェルケッラエの戦いが行われた正確な場所については、現在も考古学的な議論が続けられています。

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