ウェーブ (観客)

ウェーブ：スタジアムを彩る波状のパフォーマンス

ウェーブとは、スポーツイベントの観客が一体となって行う、独特のパフォーマンスです。観客が順番に立ち上がり、手を挙げてから座る動作を繰り返すことで、スタンド全体が波のように見えることから、この名がつけられました。メキシカンウェーブという呼び名も広く知られています。

ウェーブの起源：様々な説が飛び交う

ウェーブは1980年代初頭にアメリカで発生したと考えられていますが、その起源については複数の説があり、未だに議論の的となっています。

有力な説の一つとして、1981年、アメリカンリーグのチャンピオンシップシリーズで、プロチアリーダーのクレイジー・ジョージ・ヘンダーソンがオークランドのスタジアムで初めてウェーブを実行したという主張があります。ヘンダーソンは、事前に観客の少ないイベントで練習を重ね、熱狂的な観客を巻き込むことで成功に導いたと語っています。

一方、ワシントン大学のチアリーダーだったロブ・ウェラーは、同年10月31日のアメリカンフットボールの試合でウェーブが生まれたと主張しています。他にも、古代インディアンの狩猟方法、1930年代のスペインのイベント、1960年代のアメリカの大学バスケットボールの試合、1968年のメキシコオリンピックなど、様々な説が存在します。これらの説の信憑性は様々であり、ウェーブの起源は未だに謎に包まれています。

世界への波及：オリンピックやワールドカップで加速

1980年代から1990年代にかけて、ウェーブは世界中のスポーツイベントに広がり、大衆文化の一部となりました。1984年のロサンゼルスオリンピックや、1986年のメキシコワールドカップでは多くの観客がウェーブに参加し、世界的な注目を集めました。メキシコワールドカップでのウェーブは、「メキシカンウェーブ」という名称の普及にも大きく貢献しました。その後も、ドイツのアイスホッケーリーグや、アメリカのNASCARレースなど、様々なスポーツイベントでウェーブは行われ続け、その記録はギネス世界記録にも認定されています。

日本におけるウェーブ：複数の起源説と様々な受容

日本では、1956年の東京六大学野球の早慶戦で、早稲田大学応援部が独自のウェーブを行っていたという説があります。しかし、これはスタジアム全体に広がるものではなく、限定的なものでした。1989年の「ワールドカップ・マスターズ」の試合で初めて、国立霞ヶ丘競技場で大規模なウェーブが確認されました。その後、プロ野球の試合でもウェーブが見られるようになり、次第に広まりました。

現在では、試合の盛り上がりを表現するパフォーマンスとして行われる一方、「退屈な試合への抗議」という意味合いを持つ場合もあります。スタジアムによっては、ウェーブ自体を禁止しているところもあります。2011年にはJR九州が九州新幹線開通を記念したウェーブイベントを実施し、大きな話題となりました。2015年には、ロックバンドTUBEが観客とウェーブの最長時間記録に挑戦し、ギネス世界記録を達成しました。

ウェーブの数理モデルと問題点

ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究者は、ウェーブを数理モデルで解明しようと試みました。彼らの研究によると、ウェーブは観客の興奮度が低く、試合が盛り上がっていない時に発生しやすく、25～35人程度の集団から始まることが多いようです。通常は時計回りに進行し、一定の速度と幅を保ちながらスタジアムを一周します。

一方で、ウェーブは問題点も抱えています。オーストラリアでは、観客がウェーブ中に物を投げ入れたり、飲食物を投げつけたりする事件が頻発したため、クリケット協会はウェーブを禁止しました。ウェーブは参加は自由であるものの、一度始まると参加せざるを得ない状況を生み出し、ボイコットする観客は批判を受ける可能性もあると指摘されています。また、欧米では、試合がつまらない時に、チケットの対価に見合うエンターテインメントとしてウェーブが行われるとされている側面もあります。

まとめ

ウェーブは、観客が一体となって作り出す、魅力的なスタジアムパフォーマンスです。その起源や文化的背景、そして問題点まで含めて、ウェーブはスポーツイベントにおける興味深い現象であり続けています。今後も、世界中のスタジアムで、この波状の光景が見られることでしょう。

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