ウェールズの君主

ウェールズの君主：イングランド征服以前のウェールズ

ウェールズの歴史は、イングランドによる征服以前、数多くの独立した王国が興亡を繰り返した複雑な時代を経てきました。この記事では、その時代のウェールズの君主、彼らの支配、そしてイングランドとの関係について詳細に解説します。

ノルマン征服以前のウェールズ

ウェールズの起源は、4世紀頃にスコットランドから渡来した戦士団長キネザにまで遡ると言われています。6世紀には、アングロ・サクソン勢力の進出を受け、グゥイネッズ、ポウィス、デハイバルス、ケレディジョン、モルガヌグなどの小王国が形成されました。これらの王国はしばしば争いを繰り返しながらも、独自の文化と政治体制を築き上げていました。

アングロ・サクソン勢力の侵攻は、ウェールズにとっても大きな脅威でした。グゥイネッズ王カドゥアソンが634年に戦死した事件は、その後のイングランドとの長期に渡る対立の端緒となったと言えるでしょう。特に8世紀には、イングランドのマーシア王国オファ王がウェールズとの国境に「オファの防塁」を築くなど、激しい摩擦が続きました。

9世紀に入ると、ウェールズの統一に向けた動きが活発化します。メルヴィン・ヴリッヒ、そしてその息子ロドリ大王は婚姻政策や軍事力によって勢力を拡大し、ウェールズを統一へと導きました。しかし、ロドリ大王の死後、王国は再び分裂。この隙を突いてヴァイキングが侵攻し、セイサスグを継承したカデスはイングランドのアルフレッド大王に服従を誓うこととなります。これは、ウェールズ君主のイングランドへの服従の始まりと言えるでしょう。

カデスの息子ハウエルは婚姻や軍事力で勢力を拡大し、デハイバルス王国を形成。さらにグゥイネッズとポウイスをも征服し、南東部を除く全ウェールズを統一しました。ハウエルはウェールズ法を制定するなど、国内の整備にも力を注ぎ、「善良王」と呼ばれました。しかし、ハウエルの死後、ウェールズは再び分裂、イングランドとの関係も悪化します。

その後、幾多の紛争を経て、グリフィズ・アプ・サウェリンが南東部を除く全ウェールズを再統一しました。彼はイングランド軍を撃退し、一時的にウェールズの全土と南西イングランドの一部を支配下に置きましたが、1062年にイングランドのハロルドの侵攻を受け大打撃を受け、翌年に暗殺されました。

イングランドとの戦い

1066年のノルマン・コンクエスト後、イングランド王はウェールズ征服を重要な目標としました。グリフィズ・アプ・カナンとリース・アプ・テウドゥルが、グゥイネッズとデハイバルスをそれぞれ治めてウェールズ西進を阻んでいましたが、リースの死後、イングランドの侵攻が本格化します。

ヘンリー1世はウェールズを直轄地とする政策を進めますが、ウェールズ内部ではデハイバルス、ポウィス、グゥイネッズの三公国が形成され、それぞれの勢力争いが展開されました。グゥイネッズはオーワイン・グゥイネッズのもとで勢力を拡大し、イングランドからの独立を守り抜き、詩人からは解放者と称えられました。一方、ポウィスとデハイバルスも勢力回復を図り、12世紀半ばには三公国がウェールズの政治舞台を支配するようになりました。

デハイバルスはリース・アプ・グリフィズのもとで一時的に強大な勢力となりましたが、リチャード1世との戦いでの敗北や、リース死後の相続争いによって衰退していきました。その後、ポウィスが勢力を伸ばしましたが、イングランドの圧力やグゥイネッズの台頭により、最終的にグゥイネッズにおいてウェールズ大公国が成立することになります。

ウェールズ大公の成立と滅亡

1194年、サウェリン・アプ・ヨルウェルスは全グゥイネッズを掌握し、ウェールズ統一を目指して動き出しました。イングランド王ジョンは当初はこれを容認しましたが、サウェリンの勢力拡大に対抗して軍事行動に出ます。しかし、サウェリンはこれを機に全ウェールズ人を結集させ、イングランド軍を撃退し、全ウェールズの支配者としての地位を確立しました。彼は「大サウェリン」と呼ばれ、後世にまで名を残すことになりました。

サウェリンの死後、相続争いが勃発し、イングランド王ヘンリー3世はこれに乗じてウェールズへの侵攻を強めます。サウェリンの息子、サウェリン・アプ・グリフィズは反乱を起こし、グゥイネッズの支配権を握り、全ウェールズのリーダーとなりました。彼は1258年頃から自らをウェールズ大公と称し、ウェールズ大公国が成立しました。しかし、彼の支配は長くは続きませんでした。

1272年にエドワード1世が即位すると、ウェールズ征服に向けた動きが本格化します。エドワード1世はサウェリンを臣下として服従させることを要求しましたが、サウェリンはこれを拒否。エドワード1世の大軍による侵攻を受け、サウェリンは敗北し、アベルコンウィ条約によってイングランドの封建家臣となりました。その後も独立を目指して反乱を起こしましたが、1282年に戦死し、ウェールズ大公家は滅亡しました。以後、ウェールズ大公の称号はイングランド王の法定推定相続人に与えられるようになりました。

テューダー朝へのつながり

ウェールズ大公家は滅亡しましたが、傍系は生き残りました。テューダー朝は、その傍系の家系の一つです。この家系は、サウェリン・アプ・ヨルウェルスの宮廷で家老を務めたエドナヴェド・ヴァハンを祖とし、ウェールズ大公家とつながる血筋を持っていました。オウエン・テューダーとキャサリンの結婚、そしてその孫であるヘンリー7世が薔薇戦争を制し、イングランド王となったことで、ウェールズ大公家の血筋はイングランド王家に受け継がれたのです。ヘンリー7世は自らの王権を正当化するために、ウェールズ大公家との血縁関係を積極的に利用しました。

ウェールズの統治者一覧

この記事では、各王国の統治者の一覧も掲載しています。ただし、ウェールズの各王国は、国境の変化や相続問題によって、その支配領域や統治者の系譜が複雑に変化していきました。そのため、この一覧はあくまでも主要な君主の記録であり、すべての君主を網羅しているわけではありません。

まとめ

イングランド征服以前のウェールズの歴史は、数多くの王国が興亡し、イングランドとの間で激しい抗争が繰り広げられた複雑な時代でした。ウェールズ大公家の成立と滅亡は、その時代の重要な出来事であり、後のイギリスの歴史にも大きな影響を与えました。ウェールズの歴史を理解するためには、この時代の複雑な政治情勢を理解することが不可欠です。

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