ウェールズの旗

ウェールズの旗：赤い竜の物語

ウェールズの旗は、ウェールズ語で「Y Ddraig Goch（ア・ドライグ・ゴッホ）」、つまり「赤い竜」と呼ばれる、白と緑の二色の地に赤い竜を描いた旗です。この旗はウェールズの象徴として広く知られており、そのデザインと歴史には深い意味が込められています。

旗のデザインと象徴

旗の中央に描かれた赤い竜は、ウェールズの力と誇りを象徴しています。紋章学的な観点から見ると、竜の正確な描写は標準化されておらず、様々なバリエーションが存在します。

白と緑の水平ストライプは、1485年から1603年までイングランドを統治したテューダー朝に由来します。テューダー家はウェールズ出身であり、この配色を旗に取り入れました。また、緑と白はウェールズのもう一つの象徴であるリーキ（西洋ネギ）の色でもあります。

旗の歴史

赤い竜がウェールズの国旗として公式に認められたのは1959年のことです。しかし、赤い竜がウェールズの象徴として用いられるようになった起源は、歴史の記録や神話においても明確にはなっていません。

有力な説の一つとして、古代ローマ人がブリテンを征服した際に、騎兵の象徴であった竜の軍旗（ドラコ）が持ち込まれたというものがあります。この軍旗が現在のウェールズ地域に伝わり、象徴として定着したと考えられています。

ウェールズの象徴としての竜の最も古い記録は、9世紀前半に書かれた『ブリトン人の歴史』に見られます。この書物には、ブリトン人とサクソン人を象徴する2匹の竜が登場します。また、アーサー王をはじめとする古代の王たちが旗印として竜を用いたという説も広く支持されています。

ウェールズの古い叙事詩では、7世紀のグウィネッズ王カドワラドルと竜が結び付けられています。さらに、魔術師マーリンによる赤い竜と白い竜の戦いの予言は、ウェールズの伝説の中でも特に有名です。この予言では、赤い竜が最終的に勝利し、「約束された息子」によってログレス王国が奪還されるとされています。この戦いは、5世紀から6世紀にかけてのブリテン島におけるケルト人とサクソン人との戦いを象徴していると考えられています。

近代・現代における旗

中世にはウェールズの象徴として定着した赤い竜は、テューダー朝の紋章にも用いられました。しかし、当時はウェールズ政庁の行政を象徴するものと見なされ、ウェールズ人全体の象徴とは認識されていませんでした。

18世紀には、ウェールズ公のダチョウの羽根3本が一般的な象徴となり、赤い竜が用いられることはほとんどありませんでした。しかし、1807年にウェールズのロイヤル・バッジに赤い竜が用いられたことで、その存在が再び注目されるようになりました。19世紀には、ウェールズ人クラブなどでバッジや旗に赤い竜が用いられるようになり、20世紀に入ってからウェールズの象徴としての地位を確立しました。1953年にウェールズのロイヤル・バッジにモットーが加えられ、1959年に現在の旗が正式に制定されました。

旗の掲揚とユニオンフラッグ

現在、ウェールズの旗は、カーディフのウェールズ議会ビルやロンドンのウェールズ省に毎日掲揚されています。しかし、ウェールズの旗は、イギリスの国旗であるユニオンフラッグには組み込まれていません。これは、1606年にユニオンフラッグが制定された時点で、ウェールズがイングランドに併合されていたためです。

ユニオンフラッグにウェールズの象徴を取り入れる提案は過去に何度かありましたが、議論は盛り上がっていません。2007年には、イギリス庶民院でウェールズ選出の議員がユニオンフラッグにウェールズの意匠を取り入れるべきだと主張しましたが、国民の支持を得るには至りませんでした。

まとめ

ウェールズの旗は、その歴史と象徴性において、ウェールズの人々にとって重要な意味を持つ旗です。赤い竜はウェールズのアイデンティティを象徴し、その旗はウェールズの誇りを表しています。

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