ウォッチング・レインボーズ

ビートルズの幻の楽曲「ウォッチング・レインボーズ」：ゲット・バック・セッションから生まれた未発表曲の謎

1969年1月14日、ロンドンのトゥイッケナム・スタジオ。ビートルズは、後に『レット・イット・ビー』として世に出るアルバムのレコーディングセッション、通称「ゲット・バック・セッション」の真っ只中にいました。このセッションで生まれた、幻の楽曲が「ウォッチング・レインボーズ」です。

この曲は、ジョン・レノンがリードボーカルとエレクトリックピアノを担当し、リードギターをポール・マッカートニー、ドラムをリンゴ・スターが務めています。当時、ジョージ・ハリスンは一時的にビートルズを脱退していたため、参加していません。

シンプルな構成が特徴で、わずか2つのコードで構成されています。しかし、その短い楽曲の中に、他のビートルズの楽曲を彷彿とさせる要素が複数含まれています。まず、曲の構成は「アイヴ・ガッタ・フィーリング」と類似しており、歌詞の一部「Standing in the garden, waiting for the sun to shine」は「アイ・アム・ザ・ウォルラス」を彷彿とさせます。さらに、サビには「shoot me!（俺を撃て！）」というフレーズが登場しますが、これは後に発表された「カム・トゥゲザー」にも使用されている表現です。

「ウォッチング・レインボーズ」は、「ミーン・ミスター・マスタード」と別の未発表曲「Madman」と共にメドレーとして演奏されました。楽曲は、ポール・マッカートニーが「アイヴ・ガッタ・フィーリング」のリードギターのフレーズを奏でるところから始まり、徐々に「アイ・アム・ザ・ウォルラス」の3番目のヴァースを思わせる歌詞へと移行し、そしてジャムセッションへと展開していきます。

歌詞の内容は、貧困の中で生きる男が、虹を夢見るだけでなく、その夢を自らの力で掴みたいと願う、前向きなものです。また、歌詞の中には、後にジョン・レノンがソロで発表する『マザー』を思わせる、母親への想いを歌っている部分も見受けられます。

興味深いことに、この「ウォッチング・レインボーズ」は、後に「Everybody Had a Hard Year」という曲名になり、最終的にはポール・マッカートニーが書いた「アイヴ・ガッタ・フィーリング」と統合されたという経緯があります。

しかし、この未発表曲に対する評価は真っ二つに分かれています。作家リッチー・アンターバーガーは、「退屈」「厚ぼったい」「使い捨ての曲」と酷評しましたが、『ニューヨーク・マガジン』誌のデヴィッド・マルケーゼは「『レット・イット・ビー』のセッションで、違った遊び心のある素晴らしい楽曲」と高く評価しています。

未発表曲であるため「ウォッチング・レインボーズ」は仮の邦題ですが、この幻の楽曲は、ビートルズの創造性の深さと、その複雑な人間関係の一端を垣間見せる貴重な資料と言えるでしょう。わずか数分の楽曲の中に、様々なビートルズ作品へのオマージュや、時代背景、メンバーの心情など、多くの要素が凝縮されている点も、この曲の魅力となっています。 今後の研究によって、新たな発見が期待される、ビートルズ・ファンの心を掴んで離さない謎めいた一曲なのです。

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