ウォルター・コーン

ウォルター・コーン：密度汎関数法の父

ウォルター・コーン (1923年3月9日-2016年4月19日) は、20世紀における最も重要な理論物理学者の一人であり、量子化学の発展に革命的な貢献をした人物です。オーストリア・ウィーンに生まれた彼は、ナチスによる迫害を逃れてカナダに移住。困難な環境の中、学問への道を歩み続けました。

1948年にハーバード大学で物理学の博士号を取得した後、カーネギーメロン大学を経て、1960年にカリフォルニア大学サンタバーバラ校へ移りました。サンタバーバラ校での彼の研究は、のちにノーベル賞受賞につながる画期的な成果を生み出します。

密度汎関数法：量子化学の革命

コーンの最も重要な業績は、密度汎関数法(DFT) の開発です。これは、複雑な多電子系の性質を、電子密度のみに基づいて計算する手法です。従来の量子化学計算は、非常に多くの変数を扱う必要があり、計算コストが膨大でした。しかし、DFTは計算を大幅に簡略化し、大規模な分子系や複雑な化学反応のシミュレーションを可能にしました。

1964年、パリの高等師範学校滞在中に、コーンはピエール・ホーエンバーグと共に、電子系の基底状態エネルギーが電子密度によって一意に決定されることを示す画期的な定理を発表しました(ホーエンベルグ＝コーンの定理)。この定理は、DFTの理論的基礎を確立するものでした。

さらに、1965年にはリュウ・シャムと共に、コーン・シャム方程式を導出しました。これは、相互作用する電子系を、非相互作用電子系のモデルを用いて近似的に解く手法であり、DFT計算の実際的な手法として広く利用されています。

ノーベル化学賞とその後

コーンのDFTに関する先駆的な研究は、1998年のノーベル化学賞受賞へとつながりました。ジョン・ポープルとの共同受賞でしたが、その業績は現代化学に計り知れない影響を与えています。DFTは、材料科学、化学反応工学、薬学など、幅広い分野で不可欠なツールとなっています。

コーンの業績は、DFTの開発にとどまりません。彼は核子散乱の研究や金属フォノンにおけるコーン異常の研究など、数々の重要な貢献をしています。また、世界平和に関する講義なども行い、幅広い視野を持っていた人物でした。

困難な生い立ちと平和への願い

コーンの生涯は、困難に満ちたものでした。ナチスの迫害、そして両親の悲劇的な死を経験しながらも、彼は科学への情熱を失うことなく、数々の困難を克服して世界的な科学者となりました。彼の研究活動だけでなく、平和への願いも、彼の生涯を彩る重要な要素でした。

彼の功績は、単なる科学的業績を超え、困難な状況の中でも諦めずに夢を追い続けることの大切さを教えてくれます。ウォルター・コーンの生涯は、科学史に残るだけでなく、人類の未来への希望を示す物語となっています。

受賞歴

1961年: オリバー・E・バックリー凝縮系賞
1988年: アメリカ国家科学賞
* 1998年: ノーベル化学賞

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