ウクライナの生物兵器陰謀論

ウクライナ生物兵器陰謀論の真相

2022年3月、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ウクライナの公衆衛生施設が「米国が資金提供する秘密の生物研究所」であり、生物兵器を開発しているという陰謀論が浮上しました。この主張は、ロシア政府関係者によって広められ、中国政府も同調しました。さらに、Qアノンや米国の極右グループもこの陰謀論を支持し、拡散に加担しました。しかし、複数のメディア、科学グループ、国際機関はこの陰謀論を偽情報であると断定しています。

ロシア政府による陰謀論の拡散

ロシア政府は、この陰謀論を積極的に拡散しました。セルゲイ・ラブロフ外相、ドミトリー・メドベージェフ、ロシア大使館の公式ツイッターアカウント、国営メディアであるスプートニクとタス通信などが、この陰謀論を広める役割を果たしました。中国外務省も、ウクライナの「生物学的軍事活動」について説明を求めました。

ロシアは国連安保理でこの疑惑を議論する会合を要請しましたが、国連はウクライナで生物兵器開発プログラムは確認されていないと否定しました。また、米国がウクライナの生物兵器開発に関与しているというロシアの主張も否定されました。

2022年7月、ロシアの国家院議員は、ウクライナ軍が兵士に「意識を失わせ、残忍な怪物に変える薬物」を投与したと主張し、これは「米国の管理下で実施された」と発表しました。

米国とロシア連邦の公式見解

ロシアは、生物兵器禁止条約（BWC）に基づいて米国に公式質問を提出しました。しかし、米国はロシアの主張を「誤った特徴づけ」であると非難しました。

米国は以下の点を主張しました。

ウクライナの研究所はBWCに従い、人獣共通感染症などの分野で共同研究を促進するために設立された。
米国は1992年から21年間、ロシアとも共同研究を行っていた。
サンプルの移送は科学協力の典型的な部分であり、すべての結果を一括で転送するものではない。
ロシアが公開した文書は判読不能であり、具体的な質問が含まれていなかった。
ロシアはウクライナと米国の研究ウェブサイトの公開情報を基に、両国が「秘密裏に」協力していると主張している。
ウクライナのオデッサにある研究所で研究された病原体は、ウクライナの健康問題と合致している（例えば、炭疽菌やコレラはウクライナの風土病であり、コレラの大流行は戦争の結果として発生する可能性がある）。

オンライン陰謀論の広がり

Qアノンの推進者は、ロシアの偽情報を繰り返しており、米国が資金提供するウクライナの研究所に関する陰謀論を広めました。ロシアの国営メディアは、「秘密の米国生物研究所」が兵器を製造していると主張しましたが、これは米国、ウクライナ、国連によって否定されています。

実際には、ウクライナ保健省と米国防総省は、2005年に生物兵器の開発に使用される可能性のある技術と病原体の拡散防止協定に署名しました。ソ連の生物兵器計画の残骸を確保し解体するために研究所が設立され、その後、新たな疫病の監視と防止に使用されています。

研究所は秘密ではなく、存在が公表されており、米国ではなくウクライナなどのホスト国が所有、運営しています。また、研究所は研究成果を国際会議で発表しています。

陰謀論の解釈では、Qアノンの支持者は、ウクライナの侵攻をプーチンとトランプによるウクライナの「軍事」研究所破壊の取り組みとして正当化しようとしています。

陰謀論の拡散と影響

ウクライナの生物兵器の作り話は、QアノンチャンネルからFox Newsやドナルド・トランプ・ジュニアに広まりました。Fox Newsのコメンテーターであるタッカー・カールソンは、米国が「致命的な病原体の作成に資金を提供している」と主張しました。ロシア政府は、カールソンのクリップ映像を自国のメディアで積極的に利用しました。

元連邦下院議員のトゥルシー・ギャバードも、ウクライナで「米国が資金提供した生物研究所」が「致命的な病原体」の研究を行っているという考えを支持し、批判を浴びました。ギャバードはその後、ウクライナに生物兵器があるとは信じていないと表明しましたが、戦争地帯で病原体を研究する研究所が損害を受ける可能性について懸念を示しました。

ブルッキングス研究所のデータセットは、右派の政治ポッドキャストグループが「ウクライナの生物兵器研究所」の作り話をどのように宣伝していたかを追跡しました。スティーブン・バノンやチャーリー・カークなどの人物が、この陰謀論を積極的に広めたことが明らかになりました。

デジタルヘイト対抗センター（CCDH）の調査では、Facebookは陰謀論を広める外部記事をシェアする投稿の80%を偽情報としてラベル付けできていませんでした。

以前の陰謀論との関連性

政治学者のトーマス・リッドは、この陰謀論がクレムリンが「実際に行っていることの反対側を非難している」ケースである可能性があると指摘しました。過去にも、ソ連は自国の行動を隠蔽するために偽情報を広めたことがあります（例えば、CIAが蚊を兵器化している、HIV/エイズを米国の責任にするなど）。

また、右翼がウクライナの生物研究所の陰謀論を採用したのは、新型コロナウイルス研究所の漏洩論の影響を受けている可能性も指摘されています。

ロシア政府は、旧ソ連共和国の生物学研究所に関する陰謀論を扇動してきた歴史があり、過去にはジョージアやカザフスタンに対するプロパガンダも展開していました。これらの研究所は、国際的なパートナーシップによって広く観察されてきました。また、米国は、生物学的脅威を減らすための国際協定に基づき、ウクライナの公衆衛生研究所の改善を支援してきましたが、施設の管理や人員提供は行っていません。

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