人獣共通感染症

人獣共通感染症について

人獣共通感染症、いわゆるズーノーシスは、ヒトと動物の双方に感染を引き起こす病原体によって生ずる感染症です。これらの病原体は通常、さまざまな脊椎動物に寄生または感染し、その感染経路は動物から人間への伝播、またはその逆の両方に及びます。近年、特に顕著なのは新型コロナウイルス感染症（COVID-19）などの動物由来の新興感染症です。また、国際連合食糧農業機関（FAO）の調査によれば、1940年以降に確認された新しいヒトの感染症の約70%が動物由来であるとされています。ただし、ヒトは動物よりも2倍も多くの病原体を動物に感染させることがあり、これは公衆衛生上の深刻な問題を引き起こします。

公衆衛生における課題

人獣共通感染症は新興感染症としての側面があります。特に、近年はペットとしてさまざまな動物が国内に輸入され、この結果、従来は知られていなかった病原体がヒトの社会に突然出現するケースが増えています。これらの新興感染症は、ヒトが免疫を持っていないために広範囲な流行を引き起こす危険性が高く、診断や治療法も確立されていない場合が多いです。たとえば、2003年に発生した重症急性呼吸器症候群（SARS）は、この新興感染症の問題が顕著に現れた事例です。

また、予防の難しさも大きな課題です。最初に撲滅宣言が出された感染症である天然痘は、ヒトにのみ感染し、終生免疫が形成される特性を持ったため撲滅が可能でした。しかし人獣共通感染症として知られる狂犬病は、全ての哺乳類に感染し得ることから予防が非常に困難であり、特に小動物が感染源となる場合も多く、予期せぬ接触によって感染が広がる危険性があります。

呼称の多様性と議論

人獣共通感染症には、動物由来感染症とも呼ばれています。従来は「人畜共通感染症」という用語も使用されていましたが、「畜」という表現が家畜のみを念頭に置くため、現在はより広範な病原体の出現に対応する形で「人獣共通感染症」という表現が使われるようになっています。厚生労働省はヒトへの感染経路を重視する観点から動物由来感染症という名称を用いていますが、獣医学の立場から視点を考慮すると、動物に対する観念が不適切と指摘されることもあります。

感染リスクのある職業

獣医師や動物と接触する職業の人々は、人獣共通感染症のリスクが高いとされています。これらの職業に従事する人々は、咬傷や切り傷などの危険性に常にさらされており、継続的な教育が重要視されています。感染症のタイプによって異なるリスクが存在するため、動物に関わる全ての人がそのリスクを理解しておく必要があります。

感染の伝播形式

人獣共通感染症は、主に以下のような方法で感染が広がるとされています：

1. ダイレクトズーノーシス：動物から人間、およびその逆の直接感染です。
2. サイクロズーノーシス：複数の動物を必要とする寄生虫によるものです。
3. メタズーノーシス：脊椎動物と無脊椎動物間の感染です。
4. サプロズーノーシス：非生物的環境で増殖する病原体により感染が成立します。

これらのタイプに属する具体的な病気は、狂犬病やインフルエンザ、寄生虫感染症など多岐にわたります。

まとめ

人獣共通感染症は人類にとって極めて重要で危険な病原体であり、その予防や治療に対する取り組みは今後ますます重要性を増していくことが予想されます。動物との関わりが深まる現代において、感染症の理解と対応策の拡充が求められています。

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