ウクライナ英雄

ウクライナ英雄

ウクライナ英雄（ウクライナ語: Герой України）は、ウクライナにおいて最も栄誉ある称号であり、国家と国民への多大な貢献が認められた個人に授与されます。この称号は、ウクライナ大統領によって授与され、その対象は、英雄的な行動を遂げた市民や、国家の発展に大きく貢献した人物に及びます。

概要

ウクライナ英雄の称号は、1998年に当時のレオニード・クチマ大統領によって創設されました。この称号は、ソビエト連邦時代の「ソ連邦英雄」や「社会主義労働英雄」といった制度を参考にしていますが、ウクライナ独自の規定が設けられています。

ウクライナ英雄の称号は、大きく分けて「国家勲章」と「金星勲章」の2種類があります。国家勲章は主に市民が対象であり、科学、文化、芸術、スポーツなど、様々な分野での顕著な業績に対して授与されます。一方、金星勲章は主に軍人が対象であり、勇敢な行動や軍事的な功績に対して授与されます。

2017年には、ユーロマイダンでの犠牲者であるベラルーシ人、ミハイル・ジズネフスキーが外国人として初めてウクライナ英雄（追贈）を受章しました。これは、ウクライナの歴史において非常に重要な出来事であり、この称号の国際的な意義を示すものでもあります。

しかし、一部の授与については、政治的利権との関係や、その功績が英雄称号に値するのかという疑問の声も上がっています。これは、ウクライナ英雄の称号が、政治的な影響を受けやすい側面も持ち合わせていることを示しています。

歴史

ウクライナ英雄の称号は、ソビエト連邦時代の英雄称号をルーツとしています。ソ連時代には、「ソ連邦英雄」が軍事的な功績を称え、「社会主義労働英雄」が国民経済や文化への貢献を称えていました。ソ連崩壊後、これらの称号は廃止されましたが、ロシアやベラルーシなど、他の旧ソ連諸国では類似の称号が創設され、ウクライナ英雄もその一つです。

運用

ウクライナ英雄の称号は、1998年8月23日の大統領布告によって制定されました。ソ連時代の制度と似ていますが、受章は原則として一度限りであり、国家勲章と金星勲章の両方を受章するためには、それぞれの分野で顕著な功績が必要とされます。

国家勲章の受章者が軍事面で英雄的な行動を取った場合、その者に金星勲章が贈られる可能性があり、その逆もまた然りです。両勲章とも追贈が可能であり、受章者が重大な犯罪で有罪判決を受けた場合のみ、大統領が称号を剥奪することができます。

意匠

ウクライナ英雄の勲章には、国家勲章と金星勲章の2種類があります。どちらの勲章にも、ウクライナ国旗の色である青と黄色の綬が付けられています。金星勲章の鈕にはウクライナの国章であるトルィーズブが描かれており、五芒星と柏葉の環で構成されています。一方、国家勲章の鈕には何も描かれておらず、トルィーズブは柏葉の環に囲まれた章に配置されています。

両勲章の受章者には、正式な章に加えて、複製品が贈られます。また、両勲章共通の略小勲章も存在し、これは左胸の最上位に佩用します。

規定

ウクライナ英雄の規定は、1998年と2002年の二度にわたる大統領布告によって定められました。2002年の布告では、1998年の布告を無効化し、新たな規定が設けられました。これにより、受章者の略小勲章の佩用方法や、勲章の所有権、博物館への展示方法などが詳細に定められました。

英雄称号の授与権は大統領にのみ与えられており、原則としてウクライナ市民が対象です。また、受章者には特別給付が与えられ、昇給や社会保障、健康管理などの面で優遇されます。

佩用

ウクライナ英雄の受章者は、常に勲章を背広の左胸に佩用します。複数の勲章を佩用する場合は、ウクライナ英雄の勲章が最上位に配置されます。国家勲章と金星勲章の両方を受章している場合は、金星勲章を国家勲章の右に配置します。また、複製品や略綬、略小勲章も同様に左胸の最上位に佩用します。

手続き

ウクライナ英雄の受章には、最高会議、内閣、憲法裁判所、最高裁判所、検察局などの政府機関からの推薦が必要です。推薦された人物の活動に関する詳細な書類が大統領に送られ、大統領が推薦に同意した場合、キーウのマリア宮殿で授与式が挙行されます。

受章者

ウクライナ英雄の称号は、様々な分野で活躍する人々に対して授与されています。

科学分野

最初の受章者であるボリス・パトンは、電気溶接技術の権威であり、ウクライナ国立学士院の院長を長年務めています。その他、神経生理学者のプラトン・コスチュク、医学者のヴァレリー・カザコフなどが受章しています。

スポーツ分野

ボクシング元ヘビー級王者のビタリ・クリチコ、サッカー選手の アンドリー・シェフチェンコ、サッカー監督のヴァレリー・ロバノフスキーなどが受章しています。また、競泳選手のヤナ・クロチコワもオリンピックでの活躍を評価され受章しています。

芸術・文学分野

作曲家のオレクサンドル・ビラシュ、歌手のソフィーヤ・ロタール、作家のパヴロ・ザフレベルニィなどが受章しています。また、ジャーナリストのゲオルギー・ゴンガゼも、ジャーナリズムにおける勇気ある活動が評価され、追贈されています。

外国人

ユーロマイダンの活動家であったミハイル・ジズネフスキーが、外国人として初めてウクライナ英雄の称号を追贈されました。

その他

ウクライナ正教会の指導者であるキエフ総主教フィラレートも、宗教的な貢献が認められ受章しています。

2022年ロシアのウクライナ侵攻以降、死後の受賞者が急増しています。

疑惑

ウクライナ英雄の授与には、不正な運用に関する疑惑も存在します。レオニード・クチマの側近であったヴィクトル・メドヴェドチュクを中心に、不適切な授与が行われたとの指摘がされています。また、犯罪組織とのつながりが噂される人物が受章したことに対し、社会的な批判も上がっています。

これらの疑惑を受けて、一時的に授与が中断されたこともあります。

ステパーン・バンデーラに関する論争

2010年、ヴィクトル・ユシチェンコ大統領がステパーン・バンデーラにウクライナ英雄を贈ったことは、国内外で大きな論争を巻き起こしました。バンデーラは第二次世界大戦中にナチスと協力したとされており、この授与決定は、ロシアやポーランド、そしてユダヤ人団体から強い反発を受けました。結果として、この大統領布告は無効とされました。

まとめ

ウクライナ英雄は、ウクライナにおいて最も名誉ある称号であり、その歴史はソ連時代に遡ります。しかし、その授与を巡っては政治的な論争も存在し、制度の透明性や公正性が問われることもあります。それでも、この称号は、国家に貢献した多くの人々を讃え、その功績を後世に伝える重要な役割を担っています。

脚注

ウクライナ大統領府公式サイト
ウクライナの国家勲章に関する情報

外部リンク

Official website of the President of Ukraine
Ribbon bars for various state decorations page
* Who was given the Gold Star

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