ウゲン・ワンチュク

ウゲン・ワンチュク：近代ブータンを築いた初代国王

ウゲン・ワンチュク（1862年 - 1926年）は、ブータン王国の初代国王であり、その治世は近代国家としてのブータンの基礎を築いた重要な時代とされています。500ニュルタム紙幣に肖像が使用されており、国民に広く知られています。

生い立ちと内乱期の活躍

1862年、ウゲン・ワンチュクはトンサ・ペンロプ（地方長官）であったジグメ・ナムゲルの息子として、ブムタンのワンデュチョリン宮殿で誕生しました。父ジグメ・ナムゲルは高僧ペマ・リンパの子孫であり、母はブムタンの貴族の血を引いていました。

1870年、父が世俗の支配者であるデブ・ラジャ（デシ）になると、国内では反乱が相次ぎました。ウゲン・ワンチュクはパロに派遣され反乱を鎮圧し、その後もパロを統治しました。1879年にはパロ・ペンロップに任命され、1882年にはトンサ・ペンロプとなり、勢力を拡大していきました。この頃には、後の「トンサ王朝」の基盤がほぼ確立されたと言えます。

1884年には、イギリスの補助金をめぐる争いから、ティンプーやプナカのゾンポン（地方長官）が反乱を起こしましたが、ウゲン・ワンチュクは自ら軍を率いてこれを鎮圧しました。この勝利により、1865年から続いていた内乱に終止符が打たれ、彼は「近代ブータン建国の父」として称えられるようになりました。

初代国王への即位

1903年、デブ・パム・サンゲ・ドルジが退任し、後任のチョレ・テュルク・イェシェ・ゲドゥプの政治が民衆の不評を買ったため、1907年に退位させられました。その後、国民の代表が集まり、ウゲン・ワンチュクを世襲の国王として選出することを決定しました。これにより、1651年以来続いていた宗教界と世俗界の二重統治体制は終わりを告げ、ウゲン・ワンチュクによる新たな時代が始まりました。

即位後、ウゲン・ワンチュクは内政において国民の富裕を第一目標に掲げ、近代的な学校の建設や西洋式の教育制度の導入、国内の交通・通信網の整備など、近代化を積極的に推進しました。一方で、仏教の保護にも力を入れ、僧院の建設・修復にも尽力しました。

外交とイギリスとの関係

ウゲン・ワンチュクは、当時インドを植民地としていたイギリスを支持する外交政策を採りました。1889年にはパロ・ペンロプをイギリスに派遣し、一方で清からの使節を拒否するなど、イギリスとの関係を重視しました。1903年には、イギリスのチベット遠征に協力し、1904年の英蔵会議の調印にも仲介役として貢献しました。

1910年には、清の脅威に対応するため、イギリスとの間でプナカ条約を締結し、ブータンと英領インドとの関係をより密接なものにしました。この条約により、ブータンはイギリスの保護下に置かれることになり、清の影響力を排除することに成功しました。

ウゲン・ワンチュクがイギリスとの協調を選んだ背景には、1904年のイギリスによるチベット制圧、清の拡張政策に対する脅威、イギリスの支援なしではブータンの政治的独立が困難であったこと、そしてイギリス支配下で発展するインドの姿を目の当たりにしたことなど、複数の要因が挙げられます。

このように、ウゲン・ワンチュクは内政と外交の両面で優れた手腕を発揮し、ブータンを近代国家として確立するための基礎を築きました。彼の功績は、今日のブータンの繁栄の礎となっています。



関連項目

* ラサ条約

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