ウセルカフ

紀元前25世紀の中頃、古代エジプト史において重要な転換点となった第5王朝が幕を開けました。その創設者として知られるのが、ファラオ・ウセルカフです。その名は「力強き魂」という意味を持ち、紀元前2494年から紀元前2487年頃までのおよそ7年間、エジプトを治めたとされています。『トリノ王名表』や歴史家マネトの記録は、彼の統治期間を7年としています。

ウセルカフの治世における最も注目すべき業績の一つは、アブシールにおける太陽の神殿建設の伝統を開始したことです。これは、第4王朝までの巨大ピラミッド中心の思想から、太陽神ラーへの信仰をより前面に出す王朝の性格を象徴しています。彼はまた、古都メンフィスのネクロポリスであるサッカラに、自身の埋葬施設として「ウセルカフのピラミッド」を建造しました。このピラミッド複合体は、後の第5王朝の王たちがアブシールに自身のピラミッドと太陽神殿を並べて建設するようになる前の過渡期的な性格を持っていると見なされています。

ウセルカフの出自については、複雑でいくつかの説が存在します。かつては、ネフェルヘテプという女性が彼の母親だと広く考えられていました。しかし、近年アブシールで行われた考古学的発掘調査によって、ネフェルヘテプはウセルカフの息子であるサフラーの母親であり、さらにウセルカフの妻であった可能性が示唆されています。別の可能性としては、第4王朝末期に重要な地位を占めた女性、ケンタカウエス1世がウセルカフの母親であったとする説もあります。母親が誰であったかは依然として明確ではありませんが、ウセルカフが第4王朝のファラオ、ジェドエフラーの孫にあたり、偉大なクフの後継者として王位に就いたことは確かな事実として認識されています。また、ウェストカー・パピルスという文書には、第5王朝の最初の三人のファラオ、すなわちウセルカフ、サフラー、そしてネフェリルカラーが、全員ケンタカウエス1世の息子であったという記述も見られます。これは、ウセルカフとその息子とされるサフラー、ネフェリルカラーの関係や、ケンタカウエス1世の役割について、更なる考察を促す情報です。

ウセルカフに関連する貴重な遺物も現代に伝えられています。その一つである胸像は、現在カイロのエジプト考古学博物館に収蔵され、公開されています。中でも特に歴史的に重要とされるのが、アブ・ゴラブにある太陽の神殿跡で発見された彼の頭像です。これは、かつて神殿に設置されていた五つの王像の一つと考えられています。高さ45センチメートルほどのこの頭像は、硬質な砂岩を用いて制作されており、その特徴は、下エジプトを象徴する赤い王冠を被っている点にあります。古王国時代のファラオの彫像で下エジプトの王冠を被っているものは極めて稀であるため、この頭像は当時の王権の表現や美術史において特に重要な資料と見なされています。この貴重な彫像は、1957年に行われたドイツとスイスによる合同探検隊によって発見されました。

ウセルカフは、古代エジプト史の研究対象であるだけでなく、近代の文化作品においても取り上げられています。ノーベル文学賞を受賞したエジプトの著名な作家、ナギーブ・マフフーズは、1938年に『Afw al-malik Usirkaf: uqsusa misriya』（ウセルカフ王の赦し：エジプトの短編）というタイトルの短編小説を発表しました。この作品は後にレイモンド・ストックによって『King Userkaf's Forgiveness』として英訳され、『Voices From the Other World』という短編集に収められています。このように、ウセルカフはその歴史的な重要性から、現代においても人々の関心を集める存在であり続けています。

ウセルカフは、単に新たな王朝を開いただけでなく、太陽神信仰を国家の中心に据えるという宗教的・政治的な転換をもたらし、その後のエジプト史に大きな影響を与えたファラオです。彼の治世や家族関係、そして彼に関連する遺物の研究は、古代エジプト、特に古王国時代の社会や思想を理解する上で欠かせないものです。

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