ウミイグアナ

ウミイグアナ（学名 Amblyrhynchus cristatus）は、有鱗目イグアナ科ウミイグアナ属に分類される、海に適応した珍しいトカゲです。本種はウミイグアナ属を単独で構成しており、その名の通り海洋環境での生活に特化した進化を遂げました。生息地はエクアドルが領有するガラパゴス諸島のみに限られる固有種です。

形態

成熟した個体は全長120～150センチメートル、頭胴長は35～55センチメートルになります。頭部と頸部は太く短い形状で、頭部背面にはこぶのような隆起が見られます。頸部の背面には、最大20枚に及ぶ刺状の鱗（クレスト）が鬣のように並び、背中から尾の先端にかけても同様のクレストが続きますが、頸部のものほど大きくはありません。尾は横方向に平たく（側扁し）、頭胴長の約1.5倍の長さがあり、これが水中での推進力を高める役割を果たします。体色は緑がかった灰褐色を基調としますが、体温調節のためか外気温によって明るさが変化し、暖かいと明るく、寒いと暗くなる傾向があります。特に暗い体色は、冷たい環境下での体温上昇を助け、また周囲の溶岩海岸のような景観によく似た保護色となります。眼と鼻孔の間には、体内に蓄積した塩分を排出するための塩類腺を備えています。四肢と指趾は非常に頑丈で、長く鋭い爪が生えています。これらの爪は、流れの速い海中でも海底の岩にしがみつき、体を安定させて採食を行うために不可欠です。

分類

イグアナ科の中では、リクイグアナ属と比較的近い系統関係にあると考えられています。現在の分類では、分布する島や形態の違いに基づいて7つの亜種に分けられています。国際自然保護連合（IUCN）などの情報源によれば、これらの亜種の中には絶滅の危機に瀕しているとされるものも存在します。例えば、エスパニョラ島に生息する亜種 A. c. venustissimus は、他の亜種とは異なり、赤や青緑色の鮮やかな斑紋を持つことが特徴です。

生態

主にガラパゴス諸島の岩礁海岸で生活しています。周辺の海域は寒流が流れるため海水温が低く、ウミイグアナは海から上がると必ず日光浴を行い、冷えた体温を効率的に回復させます。体温が過度に上昇した場合は、岩陰や植物の陰で涼をとります。水中では、四肢を体に沿わせ、尾をくねらせて推進力を得ながら泳ぎます。敵に遭遇するなど危険を感じた際には、鼻孔から塩分を勢いよく噴出して威嚇する行動をとることがあります。食性の大部分は海藻で構成されていますが、状況によってはカニやアシカの糞、多肉植物なども食べることが確認されています。他の多くのトカゲと異なり、ウミイグアナは海中に潜水して採食を行う世界で唯一の種です。特に海底の岩に生えた海藻を食べる際には、鋭い爪を用いて体を固定します。幼体やメスは、水深の浅いエリアや干潮時に現れる潮間帯で採食する傾向があります。天敵としてはガラパゴスノスリが挙げられ、幼体はイワカモメにも捕食されることがあります。繁殖形態は卵生です。繁殖期は1月から2月にかけて始まり、オス同士が縄張りを巡って頭部を押し付け合う儀礼的な闘争を行います。メスは1月から4月の間に砂地に穴を掘り、1回の産卵で1個から6個の卵を産み付けます。

人間との関係と保全

大航海時代には、食料として利用された歴史があり、そのための過剰な狩猟によってかつては個体数が激減しました。しかし、ガラパゴス諸島が国立公園に指定されるなどの保護活動が進んだ結果、現在は多くの地域で生息数が増加し、以前に比べると絶滅の危険性は低いと考えられています。その一方で、限られた島々にのみ分布していること、人間が持ち込んだ外来動物による捕食や競合、エルニーニョ現象のような異常気象や2001年に発生した石油流出事故のような環境災害による大規模な死亡リスクなど、依然として多くの懸念要因が存在します。IUCNの評価では、一部の亜種が「絶滅の危険性が比較的高い」とされるVULNERABLE（危急種）に、他の亜種がさらに危険性の高いENDANGERED（絶滅危惧種）に分類されています。日本では、静岡県にあるIZooという動物園で飼育されていますが、より良い環境整備のため、2016年3月14日以降は一般公開が一時的に休止されています。近年では、地球温暖化によって主食である海藻が減少した影響で、陸地に留まるオスのウミイグアナがメスのリクイグアナと交配し、生殖能力を持たないハイブリッドイグアナが生まれるという新たな問題も確認されています。

もう一度検索