ウラディーミル・ヴァヴィロフ

ヴラディーミル・ヴァヴィロフ：ソ連の作曲家、偽作の巨匠

ヴラディーミル・フョードロヴィチ・ヴァヴィロフ (1925年5月5日 – 1973年11月3日) は、20世紀のロシアを代表するギタリスト、リュート奏者、そして作曲家でした。ソ連における古楽復興に大きく貢献した人物として知られていますが、彼の名は数々の偽作によって、音楽史に特異な足跡を残しています。

サンクトペテルブルク音楽院でギターをイサコフに、作曲をアドモニに師事したヴァヴィロフは、演奏活動と並行して、国立楽譜出版社の校訂者としても活躍しました。しかし、彼の真価は作曲家としての活動にありました。

ヴァヴィロフは、自身の作品にルネサンスやバロック時代の作曲家、時にはそれ以降の作曲家の名を冠して発表しました。フェティスやクライスラーといった過去の作曲家に偽作を帰属させた例にならい、彼は名目上の「作曲者」の様式を全く気にせず、自由に作曲しました。その作品は広く流布し、中には新たな歌詞が付け加えられ、あたかも古くからの民謡のように受け入れられたものもあります。

彼の偽作の中でも特に有名な作品には、以下のようなものがあります。

「フランチェスコ・ダ・ミラノ作」の《カンツォーナ》（または《黄金の都市》）：特に有名な作品で、ヴァヴィロフの死後発表されるとたちまちヒットしました。
「アンドレイ・シクラ作」の《マズルカ》
「ミハイル・ヴイソツキー作」の《悲歌》
「ニッコロ・ニグリーノ作」の《リチェルカール》
「バラキレフ作」の《即興曲 "Impromptu"》：ヴァヴィロフの偽作の中でもかつて最も有名だった作品です。
《カッチーニのアヴェ・マリア》: ヴァヴィロフ自身は作者不詳として発表しましたが、いつしかジュリオ・カッチーニの作品として定着し、イネッサ・ガランテを始め、アンドレア・ボチェッリやシャーロット・チャーチといった著名な歌手によって歌われるようになりました。

これらの作品は、ヴァヴィロフの卓越した音楽性と作曲技法を物語っています。彼は、単に過去の作曲家を模倣したのではなく、彼らの様式を巧みに吸収し、自身の創造性を加えることで、新たな魅力を持った作品を生み出しました。

晩年、ヴァヴィロフは貧困の中で膵臓癌により亡くなりました。皮肉にも、彼の死後発表された《黄金の都市のカンツォーナ》は、大きな成功を収めました。彼の作品は、彼の死後も人々に愛され続け、ソ連音楽史に独特の足跡を残しています。その生涯は、音楽家としての才能と、作品への独自の解釈、そして貧困の中で生きた人生の悲劇的な側面が複雑に絡み合った、興味深いものです。彼の偽作は、音楽史における著作者の問題や、音楽の受容の仕方の多様性について改めて考えさせる、重要な事例と言えるでしょう。

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