ウルグ・ムハンマド

ウルグ・ムハンマド：激動の時代を駆け抜けたジョチ・ウルスのハン

ウルグ・ムハンマド（1405年 - 1445年）は、15世紀前半のジョチ・ウルスにおいて、その生涯を通して激しい勢力争いを繰り広げた人物です。彼はクリミア、サライ、カザンと、その本拠地を何度も変えながら、最終的にはカザン・ハン国を創始しました。

生い立ちと出自

ウルグ・ムハンマドの出自については、複数の説が存在します。しかし、『高貴系譜』や『勝利の書なる選ばれたる諸史』といった史料では、いずれも彼がトクタミシュ・ハンの血筋を引くジョチ家の一員であるとされています。これらの記録によれば、ウルグ・ムハンマドはチンギス・カンの血統を受け継ぐ、由緒正しい家系の出身であったと考えられます。

サライを巡る争い

トクタミシュ・ハンが没落した後、ジョチ・ウルスでは、マングト部のエディゲとトクタミシュの遺児たちの間で、主導権を巡る争いが長年続いていました。1419年にエディゲが倒れると、ウルグ・ムハンマドが台頭し、サライを奪取します。彼は、有力部族の支持を得て、ハジタルハンも支配下に置きました。しかし、彼の支配は安定せず、一時的にサライを追われることもありました。

同時期に、東方の青帳ハン国で勢力を拡大していたバラク・ハンが、1422年にウルグ・ムハンマドからサライを奪います。ウルグ・ムハンマドはリトアニア大公国の支援を受け、クリミアで再起し、1426年にサライを奪還しました。しかし、その後もジョチ・ウルス西部では、ウルグ・ムハンマドとクチュク・ムハンマドが覇権を争う状況が続きました。

ウルグ・ムハンマドは、一時的にクチュク・ムハンマドを優勢に立っていましたが、新参の家臣を厚遇したことで、旧来の家臣たちの離反を招きます。その結果、クリミアを拠点とするサイイド・アフマド、サライを拠点とするウルグ・ムハンマド、ハジタルハンを拠点とするクチュク・ムハンマドの3勢力が鼎立する状況となりました。この3勢力は、後のクリミア・ハン国、大オルダ、アストラハン・ハン国の前身となります。

1433年から1436年にかけて、3者の対立が続きましたが、ウルグ・ムハンマドは次第に勢力を失い、1437年にはサライを追われました。彼は3000人の配下を率いて、北方のカザンに移住することになります。

カザン・ハン国の創始

カザンはモスクワに近く、モスクワ大公国は当初、ウルグ・ムハンマドの勢力を排除しようとしました。1438年、モスクワ軍はベリョーフの戦いでウルグ・ムハンマド軍に敗北し、翌年にはモスクワ近郊まで侵攻される事態となりました。その後も、ウルグ・ムハンマドはモスクワ大公国との戦いを続け、1445年にはモスクワ大公ヴァシーリー2世を捕虜とすることに成功しました。しかし、その直後にウルグ・ムハンマドは亡くなりました。

ウルグ・ムハンマドの死後、その勢力は息子のマフムーデクに引き継がれ、カザン・ハン国が形成されました。一方、もう一人の息子であるカースィムは、後継者争いに敗れてモスクワ大公国に亡命し、モスクワの支援を受けてカシモフ・ハン国を建国しました。ウルグ・ムハンマドの家系からは、2つのハン国が誕生しましたが、両ハン国とも数代で彼の血統が途絶え、他のジョチ家王族が後を継ぐことになりました。

ウルグ・ムハンマドは、ジョチ・ウルスの混乱期において、その生涯を通して激しい戦いを繰り広げた人物でした。彼の築いたカザン・ハン国は、その後も長く存続し、東ヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。

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