ウンデット・ニーの虐殺

ウーンデッド・ニーの虐殺

1890年 12月29日、アメリカ合衆国サウスダコタ州のウーンデッド・ニーで、ミネコンジュー族をはじめとするスー族インディアンの集団に対し、アメリカ陸軍第7騎兵隊が行った虐殺事件です。合衆国政府はこれを「ウーンデッド・ニーの戦い」と呼んでいますが、インディアン側は「ビッグフット一行に対する虐殺」と認識しています。

事件の背景

19世紀末、白人入植者によって生活基盤を破壊されたインディアンたちは、絶望的な状況に置かれていました。そんな中、パイユート族のウォヴォカを教祖とする「ゴースト・ダンス」が広まりました。これは、踊り続けることでインディアンの自由な世界とバッファローが復活するという終末的な信仰で、スー族の間では「ゴースト・シャツ」を着れば白人の銃弾を防げるという教義が加わりました。

白人側はこれを反乱の兆しと捉え、弾圧を強化。パインリッジ保留地の監督官ロイヤーは、ゴースト・ダンスをスー族の反乱とみなし、政府に救援を要請。これを受け、米軍がスー族の保留地に大挙して押し寄せました。また、スー族の精神的な支柱であったシッティング・ブルは、ゴースト・ダンスを煽動したという濡れ衣を着せられ、暗殺されてしまいます。

シッティング・ブルの死後、彼の支持者たちは飢えと寒さに耐えかねて、ビッグフット酋長の元へ逃れました。ビッグフットは肺炎を患いながらも、ゴースト・ダンスを信奉する部族を率い、食料補給のためにベネット砦を目指していました。ビッグフットは和平交渉者として知られていましたが、白人たちは彼を「指導者」と誤解していました。

BIAはビッグフットの動きを警戒し、彼を逮捕するために米軍を派遣。ビッグフットは降伏し、シャイアン族のキャンプまで同行するよう命令されます。しかし、その夜、さらなる騎兵隊の到着を聞き、スー族の一部が逃亡を図ります。米軍は逃亡者を追跡し、ビッグフット一行をウーンデッド・ニーに連行しました。

虐殺の発生

1890年 12月29日の朝、米軍はスー族の武装解除を開始。大砲を丘に据え、スー族を包囲しました。スー族は武器を提出しましたが、一部の戦士が隠し持っていたため、米兵がティピーに押し入り、武器を捜索。この際に、揉み合いから銃が誤射され、白人士官が死亡。これをきっかけに、米軍は無差別の虐殺を開始しました。

病を患っていたビッグフット酋長は頭部を撃たれて即死。米軍は速射砲と銃を使い、無抵抗の老若男女を問わず、徹底的に攻撃しました。インディアンたちは３キロメートルほど逃げましたが、力尽き倒れていきました。ある兵士は、「ホッチキス山砲は1分間に50発の弾を吐き、命あるものなら何でも手当たりしだいに薙ぎ倒した」と回想しています。

虐殺の知らせを受けた近隣のスー族戦士が駆けつけましたが、米軍の反撃を受け退却。現場は凄惨な状況で、子供を抱いて逃げる母親や、亡くなった母親の胸で泣き叫ぶ赤ん坊もいました。

虐殺後の状況

虐殺によるインディアン側の死者は300人近くに上り、遺体は数日間放置されました。重傷を負った女性が「ゴースト・シャツ」を脱がせてよいかと医師に問われ、「もうこんなものはいらない」と答えたという逸話も残っています。ゴースト・ダンスの信仰は、この虐殺を機に急速に衰退しました。

1891年1月1日、埋葬隊が派遣され、遺体は一つの穴にまとめて投げ込まれました。虐殺の生存者であるブラック・エルクは、後にこの事件を深く悲しみ、白人への復讐を誓いました。

「ゴースト・ダンスの上着」の返還

1999年、グラスゴーの博物館に保管されていた「ゴースト・ダンスの上着」が、スー族に返還されました。この上着は、ウーンデッド・ニーの虐殺で亡くなった戦士から剥ぎ取られたものでした。返還式典はスー族の儀式として行われ、虐殺の犠牲者を追悼しました。

ウーンデッド・ニー再現行

現在では、スー族の有志が虐殺の日程に合わせて、ビッグフット一行が辿った道を再現する試みが行われています。これは、部族の苦しみを追体験し、誇りを再確認する行為とされています。

結論

ウーンデッド・ニーの虐殺は、アメリカ史における暗黒の出来事であり、先住民に対する不当な扱いを象徴する事件です。この事件は、歴史の教訓として、決して忘れてはならないものです。

参考文献

Neihardt, John G.、Deloria, Philip J.、Demallie, Raymond J.『Black Elk Speaks: The Complete Edition』
Hehaka Sapa (Black Elk) & Neihardt,John.Black Elk Speaks: (1932).
Dee Brown『Bury My Heart at Wounded Knee』
Capps, Text by Benjamin (1975). Publisher, Staff of. ed (English). The Great Chiefs.
McMurtry, Larry (1999). Crazy Horse.