ウ・タント

ウ・タント：平和への軌跡

ウ・タント（1909年1月22日-1974年11月25日）は、ミャンマー（旧ビルマ）出身の外交官であり、教育者でした。彼は、1961年から1971年までの10年以上にわたり、第3代国際連合事務総長を務め、その間、世界平和への多大な貢献を果たしました。スカンディナヴィア以外出身者としては初の国連事務総長という歴史的な役割を担っただけでなく、彼の在任期間は歴代事務総長の中でも最長の3683日に及びました。

生い立ちと教育

ミャンマーのパンタナウで裕福な地主の家庭に生まれたウ・タントは、4人兄弟の長男でした。一家は熱心な仏教徒であり、父はカルカッタで教育を受け、英語を話す数少ない人物の一人でした。父は息子たち全員に大学教育を受けさせることを望んでおり、ウ・タント自身も幼い頃から読書好きで知られ、学校の友人からは「哲学者」と呼ばれるほどでした。読書以外にも、ハイキングや水泳、チンロンなどのスポーツも楽しんでいました。11歳の時には、1920年大学法に反対するストライキに参加するなど、社会問題にも関心を示していました。

14歳で父を亡くしたウ・タントは、経済的な困難を経験しながらも、ラングーン大学で教員課程を修了。在学中は後のミャンマー首相となるウー・ヌと親交を深め、歴史学を学びました。卒業後は教師として勤め、優秀な成績で校長に就任。国際連盟に関する書籍の翻訳などにも携わり、その知識と見識を深めていきました。

教師時代と政治への関与

教師として活躍していたウ・タントは、スタッフォード・クリップス、孫文、マハトマ・ガンジーなどの思想に影響を受け、ビルマの独立運動においては、民族主義者とイギリスへの忠誠主義者の間で穏健な立場をとりました。第二次世界大戦中の日本軍占領下では、日本語の必修化に反対し、反日抵抗運動に協力しました。

ミャンマー独立後、ウ・ヌ首相の下で放送大臣、情報大臣秘書官などを務め、カレン族との和平交渉にも尽力しました。その後、ウー・ヌ首相の秘書として、演説原稿作成や外交対応などを行い、首相の側近として活躍しました。バンドン会議の幹事や国連大使として国際舞台でも活躍し、アルジェリアの独立交渉にも深く関わりました。

国連事務総長としての貢献

1961年、ダグ・ハマーショルド事務総長の急逝を受け、ウ・タントは事務総長代行に就任。その後、正式に事務総長に選出されました。彼の在任期間は、世界史における重要な出来事に満ちていました。

キューバ危機

就任まもなく、世界を核戦争の危機に陥れたキューバ危機が発生しました。ウ・タントは、アメリカとソ連の双方との緊密な外交努力を通じて、ミサイルの撤去とキューバへの非侵攻を約束させることで危機の回避に大きく貢献しました。

コンゴ動乱

コンゴ動乱においても、ウ・タントは国連平和維持活動(ONUC)を指揮し、カタンガ分離派の鎮圧に成功しました。この功績により、ノーベル平和賞の候補に挙がりましたが、授賞は叶いませんでした。

その他の貢献

ウ・タントは、キプロス問題や中東戦争、ベトナム戦争など、多くの国際紛争の解決に尽力しました。また、国連開発計画や国連大学などの設立にも貢献し、開発問題にも取り組むなど、国際社会の発展に多大な貢献をしました。

晩年と死

1971年に国連事務総長を退任した後も、ウ・タントは国際問題に関する研究や執筆活動を行い続けました。1974年、ニューヨークで肺癌により逝去しました。ミャンマー軍事政権は、彼に対して一切の顕彰を行いませんでしたが、彼の死を悼むミャンマー国民の数は多く、彼の葬儀は、反政府運動の舞台ともなりました。

まとめ

ウ・タントは、平和主義者であり、仏教徒としての深い信仰をもち、国際社会に貢献した稀有な人物でした。彼の生涯は、国際平和への飽くなき努力と、その道の困難さを示すものとなっています。彼の功績は、現代においても高く評価され、国際社会の平和への貢献は、今もなお私たちの心に深く刻まれています。

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