エア・インディア182便爆破事件

1985年 6月23日、エア・インディアのボーイング747型機がアイルランド沖の北大西洋上で墜落し、搭乗していた乗員22名、乗客307名の計329名全員が命を落としました。この出来事は、後にシーク教過激派によるテロ攻撃であることが明らかとなり、2001年のアメリカ同時多発テロ事件が発生するまで、単一のテロ事件による犠牲者数としては世界で最も多い記録となりました。

事件の経緯

該当機体は、カナダのトロントからモントリオールを経由し、ロンドンへ向かうエア・インディア182便として運航されていました。モントリオールで予備エンジンの搭載作業による遅延が発生した後、北大西洋上を飛行中、同日午前7時15分頃（協定世界時）、アイルランドのシャノン管制のレーダーから突然消失しました。レーダー消失から約2時間後、付近を航行中の貨物船が海上に航空機の残骸を発見し、機体が深海に沈没し搭乗者全員が死亡したことが確認されました。

事故原因の調査

深海に沈んだ機体の残骸は広範囲に散乱し、回収や遺体収容は困難でした。回収されたブラックボックスの記録も途中で途絶えており、事故原因の直接的な特定には至りませんでした。

しかし、犠牲者の遺体の損傷や、機体内部からの爆発を示す残骸、海底の残骸分布から、機体が飛行中に爆発し空中分解したことが判明しました。調査の結果、貨物室で爆弾が爆発したことによる急減圧が、機体の構造破壊と空中分解を引き起こしたと断定されました。

テロとの関連と背景

この墜落事件は、発生直後からテロの可能性が指摘されていました。その根拠の一つは、182便が消失する約1時間前、日本の成田空港でもエア・インディア機へ搭載予定だった手荷物が爆発し死傷者が出た関連事件が発生していたからです。これらの事件は、いずれもエア・インディア機を狙った組織的なテロ攻撃であると見なされました。

捜査により、両事件の爆弾は、事件数日前にバンクーバーで航空券を購入しながら搭乗しなかった人物名義の手荷物に仕掛けられていたことが明らかになりました。犯人は、異なる経路でインドへ向かう2機のエア・インディア機を標的にしていたと考えられています。もし182便が定刻に出発していれば、爆発はロンドン到着後に発生していたかもしれません。

この悲劇には、空港側の安全管理の不備も関与しています。搭乗しない乗客の手荷物を飛行機に搭載したこと、そしてトロント空港のX線検査機が故障し代替検査でも爆弾が見過ごされたことが、惨事を防げなかった要因として挙げられています。また、墜落時、近くを飛行していた他の航空機とレーダー上で接近しており、もし182便がより高い高度を飛行していれば、他機を巻き込む航空史上最悪の大惨事となる可能性もありました。

犯行の背景には、1980年代のインドにおけるシーク教徒とヒンドゥー教徒の間の深刻な対立がありました。1984年のインド政府によるシーク教聖地襲撃事件への報復として、シーク教過激派がこの航空テロを実行したと考えられています。

その後の経過

事件後、カナダ在住のシーク教徒らが容疑線上に浮上しました。成田事件では有罪判決が出ていますが、182便事件に関与したとされる一部容疑者は既に死亡していました。

カナダでは、事件関与容疑で2名の男性が逮捕・起訴されましたが、2005年3月に証拠不十分として無罪判決が下されました。この裁判には多額の費用が投じられましたが、結果は論争を呼びました。現在も事件の全貌は完全には解明されていません。なお、無罪となった元被告の一人は、2022年にカナダ国内で射殺される事件も発生しています。

この事件は、国際的なテロリズムの脅威と航空安全対策の重要性を改めて示すものとなりました。手荷物爆弾によるテロという手法は、その後の航空保安体制に大きな影響を与えました。

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