エア・カナダ797便火災事故

1983年6月2日、エア・カナダ797便は、ダラス・フォートワース国際空港を離陸し、トロントを経由してモントリオールへ向かう国際線フライト中に、悲劇的な火災事故に見舞われました。この事故は、航空機の安全性における重要な教訓となり、その後の航空業界に大きな影響を与えました。

事故の概要

事故が発生したエア・カナダ797便は、乗客41名と乗員5名を乗せ、ダラス・フォートワース国際空港を後にしました。機体はDC-9-32型機（登録記号C-FTLU）で、トロント国際空港（現在のトロント・ピアソン国際空港）を経由し、ドルバル空港（現在のピエール・エリオット・トルドー国際空港）を目指していました。

離陸後、ケンタッキー州ルイビル上空を飛行中に、機体後部のトイレ付近で火災が発生しました。状況は急速に悪化し、機長は緊急着陸を決断。最も近い空港である、オハイオ州シンシナティ近郊、ケンタッキー州ボーン郡にあるシンシナティ国際空港（現在のシンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港）への緊急着陸を余儀なくされました。乗員乗客は緊急脱出を試みましたが、その結果、18名の乗客と5名の乗務員は無事に脱出できたものの、23名の乗客が命を落とすという悲惨な結果となりました。

事故調査

事故後の調査では、生存者の多くが機体が炎に包まれる前に脱出できた一方、死亡者の大半が機体前方にいたことが判明しました。また、2名の犠牲者は、火災発生後、前方に誘導されたにもかかわらず、機体後方で発見されています。死因の多くは、火災によって発生した一酸化炭素やシアン化水素などの有毒ガスを吸い込んだことによるものでした。

詳細な調査の結果、火災の発生源は機体後部のトイレ付近と推定されましたが、火災による損傷が激しく、出火原因を特定するには至りませんでした。しかし、この事故と、過去の同種の旅客機火災の調査結果を踏まえ、国家運輸安全委員会（NTSB）は連邦航空局（FAA）に対し、航空機の後部トイレへの煙感知器と自動消火設備の設置を義務付けるよう指示しました。さらに、航空会社に対しては緊急脱出手順と乗員の避難訓練の見直しを促しました。

事故による影響

この事故は、航空機の安全対策における重要な転換点となりました。NTSBによる勧告に基づき、FAAは航空機の安全性に関する新たな基準を設け、航空会社は乗務員の訓練を強化しました。また、この事故を教訓に、より安全な航空機の設計や緊急時の対応策が検討されるようになりました。

著名な乗客

この事故には、カナダの著名な民謡歌手スタン・ロジャースと、電気会社の創業者であるジョージ・カーチス・マテスも搭乗していました。

スタン・ロジャースは、「北西路」、「メアリーエレンカーター」、「蝋燭の唄」、「バレットブリバティア」などの楽曲で知られ、テキサス州で開かれたカービル民謡祭に参加した後、事故機に搭乗しました。彼は他の乗客を救助する中で逃げ遅れたとされています。ジョージ・カーチス・マテスは、同名の電気会社「カーチス・マテス・コーポレーション」の創業者として知られていました。

メディアでの取り扱い

この事故は、航空事故を題材としたドキュメンタリー番組「メーデー!:航空機事故の真実と真相」の第4シーズン第3話「FIRE FIGHT」で映像化され、その詳細が詳しく紹介されています。

参考文献

NTSB full accident report
NTSB brief DCA83AA028

関連項目

アエロフロート1492便炎上事故
サウジアラビア航空163便火災事故

外部リンク

* A photo of the burning airliner

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