エイドリアン・ストリート

エキゾチック・エイドリアン・ストリート：魅惑のヒール、そしてレスリング界のレジェンド

エイドリアン・ストリート（1940年12月5日-2023年7月24日）。その名は、プロレスファン、特に1980年代のアメリカン・プロレスに親しんだ者にとって、忘れがたい響きを持つだろう。鮮やかなメイク、けばけばしいコスチューム、そして型破りなキャラクター。「エキゾチック」というリングネームが示す通り、彼は従来のプロレスラー像を覆す存在だった。

ウェールズ出身のストリートは、少年時代からボディビルディングに励み、鍛え抜かれた肉体と端正な顔立ちから雑誌モデルとしても活動。その後、レスリングの道へ進み、1957年にキッド・ターザン・ジョナサンのリングネームでデビュー。イギリスのリングでキャリアを積み重ね、"ネイチャー・ボーイ" エイドリアン・ストリートとして活躍。1970年代にはヘルズ・エンジェルズというタッグチームを結成し、数々のタイトルを獲得するなど、イギリスのプロレスシーンで確固たる地位を築いた。

しかし、ストリートのキャリアにおける転機は1982年に訪れる。アメリカ、カリフォルニア州へと渡った彼は、そこで「エキゾチック」エイドリアン・ストリートとして生まれ変わったのだ。派手な化粧と特徴的なヘアスタイル、そして、対戦相手やレフェリーにキスを迫るなど、ゲイを思わせる挑発的なパフォーマンスは、たちまち観客の注目を集めた。この異質なキャラクターは、ヒールとして大きな成功を収め、NWAハリウッド・レスリングを中心に、太平洋岸や南部で活躍。NWAアメリカス・ヘビー級王座やアメリカス・タッグ王座など、数々のタイトルを獲得した。

彼の活躍はアメリカ全土に広がりを見せる。テネシー州メンフィスのCWA、フロリダのCWF、テキサス州サンアントニオのSCW、そしてNWAミッドアトランティックと、活躍の舞台は多岐に渡る。それぞれの団体で、彼は強烈な個性を武器に、名だたるレスラーたちと激闘を繰り広げた。ダスティ・ローデスとの抗争は特に有名で、その後のローデスの息子、ゴールダストのキャラクターにも影響を与えたと言われている。

ストリートのキャリアは、単なる「キャラクター」に留まらないプロレスラーとしての高い技術に基づいていた。正統派のレスリング技術を駆使した試合は、彼の奇抜な見た目とのギャップを生み出し、さらに大きな魅力となっていた。

1980年代半ば以降は、アラバマのCCWでNWAサウスイースタン・ヘビー級王座を4回獲得するなど、キャリア晩年まで第一線で活躍。その後もインディー団体への参戦やプロレスラー養成所のトレーナーなど、プロレス界への貢献を続けた。2019年には彼の人生を描いたドキュメンタリー映画も公開され、その生涯は多くの人々に深い感銘を与えた。

2023年7月24日、エイドリアン・ストリートは82歳で亡くなった。しかし、彼がリングに残した輝きは決して色褪せることはないだろう。派手なコスチュームとキャラクターに隠された、卓越したレスリング技術とプロレスへの情熱。エキゾチック・エイドリアン・ストリートは、真のレスリングレジェンドとして、これからも語り継がれていくに違いない。彼の功績は、数々のタイトル獲得だけにとどまらず、プロレス界の多様性を広げ、後のレスラーたちに大きな影響を与えた点にあると言えるだろう。

彼のゲイを思わせるキャラクターは、あくまでもリング上でのギミックであり、実際は妻であるミス・リンダとの幸せな家庭を築いていた。妻のリンダ自身も、イギリスで女子プロレスラーとして活躍していたという事実も興味深い。

引退後も、彼はリングコスチュームのデザイン・販売で成功を収め、WWFのレスラーたちの衣装制作にも携わっていた。彼のデザインセンスは、現役時代から高く評価されていた。

エイドリアン・ストリートの物語は、華麗で型破りなプロレスラーとしてのキャリアだけでなく、人生の豊かさ、そしてプロレス界への多大な貢献を示す、感動的な物語と言えるだろう。彼のレガシーは、これからも多くのプロレスファンにインスピレーションを与え続けるだろう。

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