エイブラハム・シャープ

エイブラハム・シャープ

エイブラハム・シャープ（Abraham Sharp）は、1653年にイングランド北部のブラッドフォードに生まれ、1742年7月18日にその生涯を終えた人物です。彼は数学と天文学の分野で顕著な業績を残しました。

生い立ちと初期の経歴

シャープは裕福な商人の子として生まれ、ブラッドフォードグラマースクールで学びました。1669年からは商人の見習いとなりますが、その後は教育の道に進みリバプールで教員を務め、さらにはロンドンで帳簿係としての職に就きました。これらの経験を通じて、彼は数学と天文学に関する幅広い知識とスキルを培っていきました。

グリニッジ天文台での活躍

シャープの優れた数学的・天文学的知識は、当時の王室天文官であったジョン・フラムスティードの目に留まります。これが転機となり、シャープは1688年にグリニッジ天文台に招かれました。天文台では、彼はフラムスティードの重要な協力者として、多岐にわたる貢献を果たしました。特に、観測に不可欠な天文機器の改良に力を尽くし、その精度向上に貢献しました。また、複雑な天体計算を行う計算手としての能力は極めて高く評価されました。

数学と天文学における業績

シャープの業績の中でも特筆すべきは、精密な計算能力です。彼はグレゴリー級数を用いて円周率（π）の計算に取り組み、具体的には級数に `x=1/√3` を代入するという手法を用いて、小数点以下71桁までという驚異的な精度で値を求めました。この記録は、1706年にジョン・マチンが100桁を計算するまで、世界記録として維持されました。

また、シャープは自身の研究成果や知識をまとめた著作も発表しています。幾何学に関する専門書である『Geometry Improved』や、計算に役立つ対数表などを出版しました。さらに、1729年に刊行された当時最大級の星図である『天球図譜』（Atlas Coelestis）には、彼が設計した2種類の星座早見盤が収められています。これは、天体観測の実用的な側面に貢献するものでした。彼はまた、フラムスティードが作成した星表の精度を高める作業にも関与しました。

晩年と私生活

1694年、シャープはグリニッジを離れ、故郷に近いリトル・ホールトンに戻りました。その後は研究に専念したと考えられています。彼は生涯独身を貫きました。精密機械の製作者として知られるジェシー・ラムスデンは、彼の妹の子孫にあたり、シャープにとっては大叔父にあたります。
シャープは1742年にリトル・ホールトンで89年の生涯を閉じました。

評価と後世への影響

同時代の多くの人々、特に科学界の著名人から、シャープはその才能を高く評価されていました。ブラッドフォード大聖堂にある彼の記念碑には、ラテン語で以下のように記されています。
>「彼は当時の最も熟練した数学者の一人として称えられ、ジョン・フラムスティードやニュートンといった名だたる学者と親しい交流を楽しみました。フラムスティードが編纂した天の記述（星表）の正確性を高めるのに貢献しました。その他にも、匿名で様々な著作を著し、実験器具の記述や天文学に関する文献を自ら完成させました。」
この碑文からも、彼が当時の科学界で果たした役割の重要性や、その多才ぶりがうかがえます。

また、月の裏側にあるクレーターの一つは、彼の功績を称えて「シャープ」と名付けられています。

エイブラハム・シャープは、精密な計算技術と天文学への深い理解をもって、17世紀末から18世紀初頭の科学の発展に貢献した、重要な数学者・天文学者と言えるでしょう。

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