エイブラハム・メリット

エイブラハム・グレース・メリット：幻想と冒険の世界を彩った作家

エイブラハム・グレース・メリット (1884年1月20日-1943年8月21日) は、20世紀前半に活躍したアメリカ合衆国の作家です。新聞記者や編集者としてのキャリアを積みながら、独自の幻想文学、SF小説を発表し、独特の世界観で多くの読者を魅了しました。その華麗な筆致と、冒険に満ちた物語は、現在でも高い評価を得ています。

華麗なるキャリア：新聞記者から編集長へ

ニュージャージー州で生まれたメリットは、ペンシルベニア州フィラデルフィアに移住後、法学を学ぶも報道の世界へ転身。新聞記者としてキャリアをスタートさせ、やがて編集者へと昇進しました。1912年から1937年にかけては、『ザ・アメリカン・ウィークリィ』誌の編集者を務め、その後は編集長として活躍しました。編集長としてのメリットは、才能ある若手イラストレーターを発掘・育成したり、当時注目を集めていたポリオの理学療法の普及に尽力するなど、多岐に渡る活動を行いました。 高収入の編集者として知られ、莫大な年収を得て世界中を旅したといいます。ジャマイカやエクアドルに不動産を持つなど、裕福な生活を送っていました。プライベートでは、ランニングや、トリカブトなどの魔術と関連の深い植物の栽培を趣味としていたというエピソードも残されています。ロングアイランドの邸宅には、旅行で収集した武器や彫刻、仮面、そして5000冊にも及ぶオカルト関連の蔵書が所狭しと並べられていたそうです。1943年、フロリダ州の別宅で心臓麻痺により急逝しました。

作家としての活動：独特な文体と魅力的な世界

メリットの小説執筆は、編集者としての仕事のかたわら行われたものでしたが、その作品は、独特な文体と魅力的な世界観で高く評価されています。フランシス・スティーヴンスというペンネームでも知られる作家、ガートルード・バロウズ・ベネットの作品から強い影響を受けており、本人もそのことを認めていました。メリットの作品世界には、失われた文明や、恐ろしい怪物など、当時のパルプ・マガジンを代表するようなテーマが数多く見られます。主人公は勇敢なアイルランド人やスカンディナビア人、悪役は裏切り者として描かれるドイツ人やロシア人が多く、ヒロインは神秘的で、肌の露出が多いのが特徴です。


しかし、メリットの作品を他のパルプ作家と一線を画すのは、その華麗な文体です。形容詞をふんだんに用いた、詳細で鮮やかな描写は、ハネス・ボクといった当時の著名なイラストレーターの点描風の挿絵と相まって、パルプSFにおけるフェティシズム的な傾向をさらに強調していました。

代表作と評価：現代への影響

1917年、短編「竜鏡の向こうに」で作家デビューを果たしたメリットは、その後も「秘境の地底人」など、数々の作品を発表しました。H・P・ラヴクラフトやロバート・E・ハワードといった、同時代の著名な作家たちと共同で創作活動を行ったこともあります。彼の作品は、死後も、他の作家によって加筆・改作され、発表が続けられました。


しかし、生前、彼の作品は、SFファンや批評家の間で必ずしも高い評価を得ていたわけではありませんでした。「イシュタルの船」など、一部の作品は高く評価されていましたが、全体としては、埋もれた作品も多くありました。近年になって、H・P・ラヴクラフトやリチャード・S・シェイヴァーへの影響が再評価され、また、著名なイラストレーターであるハネス・ボクからの賞賛などもあって、改めてその評価が高まっています。2009年には、コードウェイナー・スミス再発見賞を受賞しています。


さらに、メリットの作品は、映画やテレビドラマの原作として、しばしばクレジットなしで利用されてきました。その中には、有名な作品も含まれており、彼の作品が現代の創作にも大きな影響を与えていることがわかります。

まとめ

エイブラハム・グレース・メリットは、優れた編集者であると同時に、独自の幻想世界を作り上げた優れた作家でした。彼の作品は、冒険、幻想、そして人間の深層心理といった多様なテーマを含んでおり、現代の読者にとっても新鮮な驚きと感動を与えてくれるでしょう。彼の作品を通じて、20世紀初頭の幻想文学、SFの世界を垣間見てみるのも良いでしょう。彼の生涯と作品は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

もう一度検索