エウリュバテース

エウリュバテース（古希: Εὐρυβάτης）は、古代ギリシャの伝説に名を残す人物で、この名を持つ複数の英雄や従者が語り伝えられています。中でも有名なのは、イアソンの率いるアルゴナウタイの冒険に参加した人物、トロイア戦争で重要な役割を担ったアガメムノーンとオデュッセウスそれぞれの伝令使です。これらのエウリュバテースについて、以下に詳しく記述します。

アルゴナウタイの一員

アルゴナウタイの一人として記録されているエウリュバテースは、テレオーンの子として知られています。彼はイアソンの率いるアルゴー船に乗り込み、金羊毛を求めて様々な冒険を共にしました。しかし、その旅の途上、アルゴー船が北アフリカのリビュア地方にたどり着いた際、悲劇的な最期を迎えます。エウリュバテースは仲間の一人であるカントスと共に、現地の羊飼いであったケパリオーンの家畜を奪おうとしました。ケパリオーンはトリートーン湖のニュムペーとアムピテミスの子とされる人物です。家畜を荒らされたことに激怒したケパリオーンによって、エウリュバテースとカントスは殺されてしまいました。

アガメムノーンの伝令使

もう一人のエウリュバテースは、ミュケーナイの強力な王であり、トロイア戦争におけるギリシャ軍の総大将アガメムノーンに仕えた伝令使です。彼はタルテュビオスと共に、アガメムノーンの忠実な従者として活動しました。トロイア戦争の勃発後、アガメムノーンが英雄アキレウスから戦利品である乙女ブリーセーイスを取り上げた際、このエウリュバテースはタルテュビオスと共にアキレウスの陣営へと向かい、王の命令に従ってブリーセーイスを引き取りました。この出来事は、アキレウスが戦線から離脱するという、戦争の流れを大きく変える決定的な要因となりました。

オデュッセウスの伝令使

最後に挙げるエウリュバテースは、智略に長けたイタケー島の王オデュッセウスの伝令使です。彼はオデュッセウスの冒険や帰郷において、重要な役割を果たしました。トロイア戦争中に、ギリシャ軍がアキレウスの怒りを鎮め、再び戦線に戻るよう説得するために使節を送った際、このエウリュバテースも使節団の一員として同行しました。使節団はオデュッセウス、大アイアース、老将ポイニクスの三人の主要メンバーに加え、伝令使のオディオスと共に編成されました。

長い放浪の末、変装して故郷イタケー島へ帰還したオデュッセウスが、妻のペーネロペーに自らの正体を隠して語った言葉の中に、この伝令使エウリュバテースについての言及があります。オデュッセウスによれば、エウリュバテースは彼よりも少し年上で、肌の色は黒く、縮れた髪を持っていました。そして何よりも、オデュッセウスとは非常に気が合い、彼にとって大変大事な存在であったと語られています。これは、単なる主従関係を超えた、深い信頼と親愛の情を示唆する描写と言えるでしょう。

このように、エウリュバテースという名は、異なる時代や場所で、多様な形でギリシャ神話に登場し、それぞれの物語の中で独特の役割を果たしています。アルゴナウタイの悲劇的な末裔、総大将の権威を示す使者、そして智将オデュッセウスの心を通わせた忠実な従者として、彼らの存在は神話の世界に彩りを添えています。

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