エカテリーナ・ユンゲ
エカテリーナ・ユンゲ（Ekaterina Fyodorovna Junge, 1843年11月24日 - 1913年1月20日）は、ロシア帝国の画家、著述家です。旧姓はトルスタヤといい、文豪レフ・トルストイのいとこにあたります。1890年代には、自らの回想録を出版し、当時の社会や文化、家族との交流を後世に伝えました。
エカテリーナは、サンクトペテルブルクで貴族の家庭に生まれました。父フョードル・ペトローヴィチ・トルストイは、ロシア帝国美術アカデミーの副会長を務めた人物で、レフ・トルストイの父ニコライ・イリッチ・トルストイの兄でした。エカテリーナは、父の2番目の妻の娘であり、異母姉には作家のマリア・カメンスカヤがいます。文学と音楽を愛する家庭環境で育ち、幼い頃から多くの文化人と交流しました。10歳になる前に、父の邸宅で、当時すでに将来を嘱望されていた文学者のレフ・トルストイと出会ったことは、彼女の回想録にも記されています。
1860年から1861年にかけて、両親と共にドイツ、フランスを経由してイタリアに旅行しました。その際、レオナルド・ダ・ヴィンチの壁画「最後の晩餐」に感銘を受けました。また、フィレンツェでは、ロシア出身の画家ニコライ・ゲーや、彫刻家のパルメン・ペトロヴィッチ・ザベロらと交流しました。これらの経験は、彼女の芸術観を形成する上で重要な役割を果たしたと考えられます。
1863年9月、眼科医でサンクトペテルブルク医学校の教授であったエデュアルド・ユンゲと結婚しました。夫は眼科医としてだけでなく、ワイン用ブドウの栽培と育種にも取り組んでいました。エデュアルドは1883年まで軍の医学校の校長を務めた後、農学校の校長に転任しました。その後、クリミアに広大な農地を購入し、ワイン造りの実験を始めました。
エカテリーナは、父から美術の指導を受けた後、デュッセルドルフに留学し、風景画家のオスヴァルト・アッヒェンバッハと風俗画家のバンジャマン・ヴォーティエに師事しました。パリでは風景画家のシャルル＝フランソワ・ドービニーの指導を受けました。彼女は主に水彩で風景画を描き、ロシア水彩画家協会の展覧会に出展しました。1864年には美術アカデミーの展覧会で銀メダルを受賞するなど、その才能は高く評価されました。
1882年から1887年まで、キエフの美術学校で教鞭を執り、その後、モスクワの美術学校でも教えました。1885年には美術アカデミーの名誉会員に選ばれました。教育者としても、多くの学生を指導し、ロシア美術の発展に貢献しました。
1884年、エカテリーナはレフ・トルストイと再会しました。その後、トルストイと連絡を取り合い、彼の小説『ハジ・ムラート』の執筆のための資料を提供したとされています。この交流は、彼女の回想録にも記述されており、トルストイの人物像を知る上で貴重な情報を提供しています。
エカテリーナ・ユンゲは、画家、著述家、教育者として多岐にわたる活動を行い、1913年に生涯を閉じました。彼女の残した作品や回想録は、19世紀ロシアの文化や社会、そして芸術家の生活を研究する上で貴重な資料となっています。特に、回想録は、レフ・トルストイとの個人的な交流や、当時の文化人の様子を生き生きと描いており、文学史的にも重要な価値を有しています。
（作品画像は省略）
F. P. Tolstoi, Kindheit und Jugend. In: Russisches Kunstarchiv, 1892.
Из моих воспоминаній. Iz moikh vospominanīĭ. In: Westnik Jewropy, 1905 .
Воспоминания: 1843–1860. Sphinks, Sankt Petersburg 1914.
Воспоминания. Переписка. Сочинения. 1843–1911, Kutschkowo, Moskau 2017
Junge, Fjodorowna Jekaterina. In: Hans Vollmer (Hrsg.): Allgemeines Lexikon der Bildenden Künstler von der Antike bis zur Gegenwart. Begründet von Ulrich Thieme und Felix Becker. Band 19: Ingouville–Kauffungen. E. A. Seemann, Leipzig 1926, S. 326.
F. I. Bulgakow: Unsere Künstler auf den akademischen Ausstellungen der letzten 25 Jahre [Наши художники на академнческихъ выставкахъ послѣдняго 25-ти лѣтія]. 1890.
S. N. Kondakov: Die Kaiserliche Kunstakademie [Кондаков, С. Н.: Академия Императорская художественная / Akademija Imperatorskaja Chudožestvennaja]. Band 2.
A. Novizkij: Vorwort zu Vospominanija. 1913.
A. Novizkij: Nekrolog. In: Parlament [Рада], 1913, Nr. 22.
M. A. Voloshin: Tagebuch. 5/III, 1932.
John Milner: A Dictionary of Russian and Soviet Artists 1420-1970. Woodbridge 1993.
Yunge, Ekaterina. In: Wolodymyr Kubijowytsch, Danylo Husar Struk (Hrsg.): Encyclopedia of Ukraine. Band 5, University of Toronto Press, Toronto 1993, S. 782.
Hans Paffrath, Kunstmuseum Düsseldorf (Hrsg.): Lexikon der Düsseldorfer Malerschule. Band 2, Anhang. Bruckmann, München 1998, ISBN 3-7654-3010-2.
Junge, Ekaterina Fedorovna. In: Allgemeines Künstlerlexikon: Bio-bibliographischer Index A–Z. K. G. Saur Verlag, München 2000, Band 5, S. 380.
* P. D. Tsukanov: E. F. Junge. Katalog von Kunstpostkarten. In: Filokartia. Nr. 2 (8), 2008 (Abb.) [П.Д. Цуканов: Е. Ф. Юнге. Каталог художественных открыток. № 2 (8) журнала „Филокартия“. 2008]
生い立ちと家族
エカテリーナは、サンクトペテルブルクで貴族の家庭に生まれました。父フョードル・ペトローヴィチ・トルストイは、ロシア帝国美術アカデミーの副会長を務めた人物で、レフ・トルストイの父ニコライ・イリッチ・トルストイの兄でした。エカテリーナは、父の2番目の妻の娘であり、異母姉には作家のマリア・カメンスカヤがいます。文学と音楽を愛する家庭環境で育ち、幼い頃から多くの文化人と交流しました。10歳になる前に、父の邸宅で、当時すでに将来を嘱望されていた文学者のレフ・トルストイと出会ったことは、彼女の回想録にも記されています。
美術と旅
1860年から1861年にかけて、両親と共にドイツ、フランスを経由してイタリアに旅行しました。その際、レオナルド・ダ・ヴィンチの壁画「最後の晩餐」に感銘を受けました。また、フィレンツェでは、ロシア出身の画家ニコライ・ゲーや、彫刻家のパルメン・ペトロヴィッチ・ザベロらと交流しました。これらの経験は、彼女の芸術観を形成する上で重要な役割を果たしたと考えられます。
結婚と家族
1863年9月、眼科医でサンクトペテルブルク医学校の教授であったエデュアルド・ユンゲと結婚しました。夫は眼科医としてだけでなく、ワイン用ブドウの栽培と育種にも取り組んでいました。エデュアルドは1883年まで軍の医学校の校長を務めた後、農学校の校長に転任しました。その後、クリミアに広大な農地を購入し、ワイン造りの実験を始めました。
画家としての活動
エカテリーナは、父から美術の指導を受けた後、デュッセルドルフに留学し、風景画家のオスヴァルト・アッヒェンバッハと風俗画家のバンジャマン・ヴォーティエに師事しました。パリでは風景画家のシャルル＝フランソワ・ドービニーの指導を受けました。彼女は主に水彩で風景画を描き、ロシア水彩画家協会の展覧会に出展しました。1864年には美術アカデミーの展覧会で銀メダルを受賞するなど、その才能は高く評価されました。
教育者としての活動
1882年から1887年まで、キエフの美術学校で教鞭を執り、その後、モスクワの美術学校でも教えました。1885年には美術アカデミーの名誉会員に選ばれました。教育者としても、多くの学生を指導し、ロシア美術の発展に貢献しました。
レフ・トルストイとの交流
1884年、エカテリーナはレフ・トルストイと再会しました。その後、トルストイと連絡を取り合い、彼の小説『ハジ・ムラート』の執筆のための資料を提供したとされています。この交流は、彼女の回想録にも記述されており、トルストイの人物像を知る上で貴重な情報を提供しています。
晩年と遺産
エカテリーナ・ユンゲは、画家、著述家、教育者として多岐にわたる活動を行い、1913年に生涯を閉じました。彼女の残した作品や回想録は、19世紀ロシアの文化や社会、そして芸術家の生活を研究する上で貴重な資料となっています。特に、回想録は、レフ・トルストイとの個人的な交流や、当時の文化人の様子を生き生きと描いており、文学史的にも重要な価値を有しています。
作品
（作品画像は省略）
著作
F. P. Tolstoi, Kindheit und Jugend. In: Russisches Kunstarchiv, 1892.
Из моих воспоминаній. Iz moikh vospominanīĭ. In: Westnik Jewropy, 1905 .
Воспоминания: 1843–1860. Sphinks, Sankt Petersburg 1914.
Воспоминания. Переписка. Сочинения. 1843–1911, Kutschkowo, Moskau 2017
参考文献
Junge, Fjodorowna Jekaterina. In: Hans Vollmer (Hrsg.): Allgemeines Lexikon der Bildenden Künstler von der Antike bis zur Gegenwart. Begründet von Ulrich Thieme und Felix Becker. Band 19: Ingouville–Kauffungen. E. A. Seemann, Leipzig 1926, S. 326.
F. I. Bulgakow: Unsere Künstler auf den akademischen Ausstellungen der letzten 25 Jahre [Наши художники на академнческихъ выставкахъ послѣдняго 25-ти лѣтія]. 1890.
S. N. Kondakov: Die Kaiserliche Kunstakademie [Кондаков, С. Н.: Академия Императорская художественная / Akademija Imperatorskaja Chudožestvennaja]. Band 2.
A. Novizkij: Vorwort zu Vospominanija. 1913.
A. Novizkij: Nekrolog. In: Parlament [Рада], 1913, Nr. 22.
M. A. Voloshin: Tagebuch. 5/III, 1932.
John Milner: A Dictionary of Russian and Soviet Artists 1420-1970. Woodbridge 1993.
Yunge, Ekaterina. In: Wolodymyr Kubijowytsch, Danylo Husar Struk (Hrsg.): Encyclopedia of Ukraine. Band 5, University of Toronto Press, Toronto 1993, S. 782.
Hans Paffrath, Kunstmuseum Düsseldorf (Hrsg.): Lexikon der Düsseldorfer Malerschule. Band 2, Anhang. Bruckmann, München 1998, ISBN 3-7654-3010-2.
Junge, Ekaterina Fedorovna. In: Allgemeines Künstlerlexikon: Bio-bibliographischer Index A–Z. K. G. Saur Verlag, München 2000, Band 5, S. 380.
* P. D. Tsukanov: E. F. Junge. Katalog von Kunstpostkarten. In: Filokartia. Nr. 2 (8), 2008 (Abb.) [П.Д. Цуканов: Е. Ф. Юнге. Каталог художественных открыток. № 2 (8) журнала „Филокартия“. 2008]
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