エキーオーン

エキーオーン（古希: Ἐχίων, Echīōn）

エキーオーンは、古代ギリシアの神話に登場する人物です。特に有名なのは、テーバイ建国の物語において重要な役割を果たした伝説的な存在、スパルトイ（「蒔かれた人々」の意）の一人として語られるエキーオーンです。

テーバイ建国に関わるエキーオーン

テーバイの都市を築こうとした英雄カドモスは、神聖な泉を守る恐ろしい竜を討ち取りました。女神アテーナーの助言を受けた彼は、その竜の牙を大地に蒔きました。すると、そこから完全武装した戦士たちが次々と生まれ出ました。これこそがスパルトイです。彼らは生まれながらにして互いに敵意を向け合い、凄惨な殺し合いを始めました。その中で生き残ることができたのは、わずか五人の戦士だけでした。その五人とは、エキーオーン、ウーダイオス、クトニオス、ヒュペレーノール、ペローロスでした。

この生き残ったスパルトイたちは、アテーナーのさらなる導きによって、互いへの敵意を捨てて平和を誓い合いました。そして、彼らはテーバイ建国の祖であるカドモスに忠誠を誓い、彼の事業を助けることになります。エキーオーンは、五人のスパルトイの中でも特に優れた武勇と知恵を持っていたとされ、カドモスは彼を深く信頼し、自分の養子として迎え入れたとも伝えられています。この養子縁組は、スパルトイが単なる戦士集団ではなく、テーバイの礎となる氏族へと位置づけられたことを示唆しています。

エキーオーンは、カドモスとその妻ハルモニアーの娘であるアガウエーを妻に迎えました。アガウエーは、ディオニューソスの狂信的な信者として知られ、後に悲劇的な運命をたどることになる人物です。エキーオーンとアガウエーの間には、息子のペンテウスが生まれました。ペンテウスは後にカドモスの後を継いでテーバイの王となりますが、ディオニューソス信仰を否定したために神の怒りを買い、凄惨な最期を迎えることになります。このように、エキーオーンはテーバイの王家に連なる血筋の重要な一員であり、彼の息子ペンテウスの物語は、テーバイの悲劇的な系譜の一部を形成しています。

エキーオーンを含む生き残った五人のスパルトイの子孫たちは、テーバイ貴族の五つの主要な家系、すなわち「ゲンテイ」（氏族）を形成したと信じられており、彼らはテーバイ社会において特別な地位を占めていました。

その他の同名人物

ギリシア神話には、上記のテーバイのスパルトイであるエキーオーンとは異なる、同名の人物が複数登場します。

ヘルメースの子エキーオーン: 神々の使者ヘルメースと、メネトスの娘アンティアネイラとの間に生まれた息子にも、エキーオーンという名の人物がいます。彼はエウリュトスという兄弟とともに語られることがあります。このエキーオーンは、ギリシア神話の有名な英雄譚であるカリュドーンの猪狩りや、イアーソーン率いるアルゴナウタイの遠征に参加した英雄の一人として名を連ねています。

ポルテウスの子エキーオーン: トロイア戦争に関わったギリシアの英雄の中にもエキーオーンという名の人物がいます。彼はポルテウスの子であり、トロイア攻略の決定的な計略となった「木馬作戦」に参加した一人です。しかし、彼は木馬から市内に降り立つ際、他の兵士たちが安全のために使用したロープを使わず、性急に一番乗りしようとして飛び降りたため、高所から転落して命を落としたと伝えられています。

* ペーネロペーの求婚者エキーオーン: イタケーの王オデュッセウスの妻ペーネロペーに、オデュッセウスの不在中に大勢集まった求婚者たちの中にも、エキーオーンという名の人物がいました。彼はドゥーリキオーンという地（イタケー近隣の島と考えられている）の出身であったと記されています。

これらの異なるエキーオーンたちは、それぞれ別の血筋と物語に属していますが、同じ名前を持つために、しばしば混同されることがあります。しかし、ギリシア神話の文脈においては、通常、テーバイのスパルトイであるエキーオーンが最も著名な人物として認識されています。

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