エウリュトス
古代ギリシア神話の世界には、「エウリュトス」という名を持つ複数の存在が登場します。彼らは巨人であったり、様々な英雄たちの物語に名を連ねる人物であったりと、その出自や関わるエピソードは多岐にわたります。
大地母神ガイアが天空神ウーラノス、あるいは冥界神タルタロスとの間に生んだとされる巨人族、ギガンテスのひとりです。神々と巨人族が世界の覇権を争った「ギガントマキアー」において、このエウリュトスは酒神ディオニューソスにテュルソスの杖で打ち倒され、さらに英雄ヘーラクレースが毒を塗った矢でとどめを刺したと伝えられています。
アクトールとモーリオネーの子として生まれ、クテアトスとは双子の兄弟です。彼らは総称して「モリオネー」とも呼ばれ、一説には海神ポセイドーンを父に持つともいわれています。エーリス地方のオーレノス王デクサメノスの娘テーライポネーとの間には、息子タルピオスをもうけました。アクトールの息子エウリュトスは、クテアトスと共に伝説的な「カリュドーンの猪狩り」に参加した英雄の一人です。また、彼らはエーリス地方の武将として、ヘーラクレースと戦ったこともありました。息子タルピオスは、後にスパルタの王女ヘレネーの有名な求婚者の一人に名を連ねています。
神々の伝令使ヘルメースと、アンティアネイラの子として生まれたエウリュトスは、兄弟のエキーオーンと共に、伝説の船アルゴー号に乗って金羊毛を求める冒険に出た「アルゴナウタイ」の一員です。アルゴナウタイがイオールコスに帰還した後、アカストス王が父ペリアースの葬儀に際して開催した競技会で、エウリュトスは弓術部門で優勝を果たしました。彼もまた、「カリュドーンの猪狩り」に参加したとする説があります。
最も広く知られるエウリュトスは、オイカリアを治めた王でしょう。彼は弓の技に秀でたアポローンの子メラネウスと、ポルターオーンの娘ストラトニーケーの息子とされます。このエウリュトスは、後の大英雄ヘーラクレースに弓術を教えた師であり、その弓の腕前は父とされるアポローンから授けられたものだと伝えられています（ホメーロスの叙事詩『オデュッセイアー』では、アポローンと弓の技を競って殺されたとも語られています）。
オイカリア王エウリュトスには、イーピトス、デーイオーン、クリュティオス、トクセウスといった息子たちがいたとヘーシオドスは記しています。また、ヒュギーヌスによれば、彼はピュローンの娘アンティオペーを妻とし、息子イーピトスとクリュティオスがアルゴナウタイであったとしています。
物語は、エウリュトスが自身の娘イオレーを、弓術で自分や息子たちに勝った者に妻として与えると公言したことから大きく動き出します。これを聞いたヘーラクレースは、当時の妻メガラーを甥イオラーオスに与え、イオレーを求めてオイカリアで弓術勝負を挑みました。結果はヘーラクレースの圧勝でした。しかし、息子イーピトスが約束通りイオレーを与えるべきだと主張したにもかかわらず、エウリュトスと他の息子たちはこれを拒否します。彼らは、かつてヘーラクレースが狂気に駆られて自分の子を殺した前例を挙げ、イオレーとの間に子ができれば再び同じ悲劇が起こる可能性を恐れたのです。ヘーラクレースは激怒しましたが、この時は引き下がりました。
その後、エウボイア島でエウリュトスの牛が盗まれる事件が発生します。これは実は有名な盗賊アウトリュコスの仕業でしたが、エウリュトスは弓術勝負の腹いせにヘーラクレースが犯したのではないかと疑念を抱きました。息子イーピトスだけはヘーラクレースを信じ、彼の弁護に努め、盗まれた牛を共に探すためティーリュンスのヘーラクレースのもとを訪れます。ヘーラクレースはイーピトスを温かく迎え入れましたが、再び狂気に襲われ、イーピトスを城壁から突き落として殺害してしまいました。
このイーピトス殺害の罪により、ヘーラクレースは病に苦しむことになり、神託によってリュディアの女王オムパレーの奴隷となることを命じられます。また、この神託はエウリュトスに対し、殺害の代価を支払うようヘーラクレースに指示しましたが、エウリュトスは頑なにその受け取りを拒否しました。
奴隷の年季が明けたヘーラクレースは、各地を転戦した後、ついにエウリュトスへの復讐を果たすべくオイカリアを攻めました。この戦いでは、アルカディア人やその他多くの人々がヘーラクレースに味方し、激しい戦闘の末、オイカリアは陥落。エウリュトス王と彼の息子たちは皆殺しにされ、娘のイオレーはヘーラクレースの捕虜となりました。このイオレーがヘーラクレースの妻デーイアネイラに贈られた毒の衣（ケンタウロス、ネッソスの血が塗られたもの）を受け取らせる原因となり、結果的にヘーラクレース自身の最期へと繋がっていくのです。
オイカリア王エウリュトスが持っていた弓は、特別な弓でした。一説には父とされるアポローンから譲り受けたものとも言われ、その技量もアポローンから授けられたものでした。この弓はエウリュトスの死後、息子イーピトスに受け継がれます。イーピトスが盗まれた馬を探している途中で英雄オデュッセウスと出会った際、彼はこの父伝来の弓と、オデュッセウスの持つ刀や槍を交換しました。オデュッセウスは弓を故郷イタケーに持ち帰りましたが、トロイア戦争に出陣する際には館に残していきました。トロイア戦争終結後、オデュッセウスが長く帰らない間、彼の妻ペーネロペーに多くの求婚者が現れ館を占拠します。密かに帰還したオデュッセウスは、求婚者たちを一掃するための計略を練り、この時、イタケーに残されていたエウリュトスの弓が決定的な役割を果たすことになります。
スパルタの支配者であったヒッポコオーンには、ドリュクレウス、スカイオスなど多くの息子たちがおり、その中にエウリュトスもいました。ヒッポコオーンとその息子たちは、正当な王位継承者であった兄弟のテュンダレオースやイーカリオスを追放してラケダイモーン（スパルタ）の王位を奪いました。ヘーラクレースがエーリス遠征の後にピュロスを攻略した際、ヒッポコオーンとその息子たちはピュロスのネーレウスに加勢してヘーラクレースと敵対します。さらに、ヒッポコオーンの息子たちがヘーラクレースの叔父にあたるリキュムニオスの息子を殺害したため、ヘーラクレースは彼らに復讐を決意。ヒッポコオーンとその息子たちは、この戦いで全員がヘーラクレースによって討たれました。
このように、エウリュトスという名はギリシア神話の様々な場面に顔を出す複数の存在に与えられています。特にオイカリアの王エウリュトスは、弓の名手として、そしてヘーラクレースやオデュッセウスといった著名な英雄たちの物語に深く関わる人物として、その名を残しています。
ギガンテスのエウリュトス
大地母神ガイアが天空神ウーラノス、あるいは冥界神タルタロスとの間に生んだとされる巨人族、ギガンテスのひとりです。神々と巨人族が世界の覇権を争った「ギガントマキアー」において、このエウリュトスは酒神ディオニューソスにテュルソスの杖で打ち倒され、さらに英雄ヘーラクレースが毒を塗った矢でとどめを刺したと伝えられています。
アクトールの息子エウリュトス
アクトールとモーリオネーの子として生まれ、クテアトスとは双子の兄弟です。彼らは総称して「モリオネー」とも呼ばれ、一説には海神ポセイドーンを父に持つともいわれています。エーリス地方のオーレノス王デクサメノスの娘テーライポネーとの間には、息子タルピオスをもうけました。アクトールの息子エウリュトスは、クテアトスと共に伝説的な「カリュドーンの猪狩り」に参加した英雄の一人です。また、彼らはエーリス地方の武将として、ヘーラクレースと戦ったこともありました。息子タルピオスは、後にスパルタの王女ヘレネーの有名な求婚者の一人に名を連ねています。
ヘルメースの息子エウリュトス
神々の伝令使ヘルメースと、アンティアネイラの子として生まれたエウリュトスは、兄弟のエキーオーンと共に、伝説の船アルゴー号に乗って金羊毛を求める冒険に出た「アルゴナウタイ」の一員です。アルゴナウタイがイオールコスに帰還した後、アカストス王が父ペリアースの葬儀に際して開催した競技会で、エウリュトスは弓術部門で優勝を果たしました。彼もまた、「カリュドーンの猪狩り」に参加したとする説があります。
オイカリアの王エウリュトス
最も広く知られるエウリュトスは、オイカリアを治めた王でしょう。彼は弓の技に秀でたアポローンの子メラネウスと、ポルターオーンの娘ストラトニーケーの息子とされます。このエウリュトスは、後の大英雄ヘーラクレースに弓術を教えた師であり、その弓の腕前は父とされるアポローンから授けられたものだと伝えられています（ホメーロスの叙事詩『オデュッセイアー』では、アポローンと弓の技を競って殺されたとも語られています）。
オイカリア王エウリュトスには、イーピトス、デーイオーン、クリュティオス、トクセウスといった息子たちがいたとヘーシオドスは記しています。また、ヒュギーヌスによれば、彼はピュローンの娘アンティオペーを妻とし、息子イーピトスとクリュティオスがアルゴナウタイであったとしています。
物語は、エウリュトスが自身の娘イオレーを、弓術で自分や息子たちに勝った者に妻として与えると公言したことから大きく動き出します。これを聞いたヘーラクレースは、当時の妻メガラーを甥イオラーオスに与え、イオレーを求めてオイカリアで弓術勝負を挑みました。結果はヘーラクレースの圧勝でした。しかし、息子イーピトスが約束通りイオレーを与えるべきだと主張したにもかかわらず、エウリュトスと他の息子たちはこれを拒否します。彼らは、かつてヘーラクレースが狂気に駆られて自分の子を殺した前例を挙げ、イオレーとの間に子ができれば再び同じ悲劇が起こる可能性を恐れたのです。ヘーラクレースは激怒しましたが、この時は引き下がりました。
その後、エウボイア島でエウリュトスの牛が盗まれる事件が発生します。これは実は有名な盗賊アウトリュコスの仕業でしたが、エウリュトスは弓術勝負の腹いせにヘーラクレースが犯したのではないかと疑念を抱きました。息子イーピトスだけはヘーラクレースを信じ、彼の弁護に努め、盗まれた牛を共に探すためティーリュンスのヘーラクレースのもとを訪れます。ヘーラクレースはイーピトスを温かく迎え入れましたが、再び狂気に襲われ、イーピトスを城壁から突き落として殺害してしまいました。
このイーピトス殺害の罪により、ヘーラクレースは病に苦しむことになり、神託によってリュディアの女王オムパレーの奴隷となることを命じられます。また、この神託はエウリュトスに対し、殺害の代価を支払うようヘーラクレースに指示しましたが、エウリュトスは頑なにその受け取りを拒否しました。
奴隷の年季が明けたヘーラクレースは、各地を転戦した後、ついにエウリュトスへの復讐を果たすべくオイカリアを攻めました。この戦いでは、アルカディア人やその他多くの人々がヘーラクレースに味方し、激しい戦闘の末、オイカリアは陥落。エウリュトス王と彼の息子たちは皆殺しにされ、娘のイオレーはヘーラクレースの捕虜となりました。このイオレーがヘーラクレースの妻デーイアネイラに贈られた毒の衣（ケンタウロス、ネッソスの血が塗られたもの）を受け取らせる原因となり、結果的にヘーラクレース自身の最期へと繋がっていくのです。
エウリュトスの弓
オイカリア王エウリュトスが持っていた弓は、特別な弓でした。一説には父とされるアポローンから譲り受けたものとも言われ、その技量もアポローンから授けられたものでした。この弓はエウリュトスの死後、息子イーピトスに受け継がれます。イーピトスが盗まれた馬を探している途中で英雄オデュッセウスと出会った際、彼はこの父伝来の弓と、オデュッセウスの持つ刀や槍を交換しました。オデュッセウスは弓を故郷イタケーに持ち帰りましたが、トロイア戦争に出陣する際には館に残していきました。トロイア戦争終結後、オデュッセウスが長く帰らない間、彼の妻ペーネロペーに多くの求婚者が現れ館を占拠します。密かに帰還したオデュッセウスは、求婚者たちを一掃するための計略を練り、この時、イタケーに残されていたエウリュトスの弓が決定的な役割を果たすことになります。
ヒッポコオーンの息子エウリュトス
スパルタの支配者であったヒッポコオーンには、ドリュクレウス、スカイオスなど多くの息子たちがおり、その中にエウリュトスもいました。ヒッポコオーンとその息子たちは、正当な王位継承者であった兄弟のテュンダレオースやイーカリオスを追放してラケダイモーン（スパルタ）の王位を奪いました。ヘーラクレースがエーリス遠征の後にピュロスを攻略した際、ヒッポコオーンとその息子たちはピュロスのネーレウスに加勢してヘーラクレースと敵対します。さらに、ヒッポコオーンの息子たちがヘーラクレースの叔父にあたるリキュムニオスの息子を殺害したため、ヘーラクレースは彼らに復讐を決意。ヒッポコオーンとその息子たちは、この戦いで全員がヘーラクレースによって討たれました。
このように、エウリュトスという名はギリシア神話の様々な場面に顔を出す複数の存在に与えられています。特にオイカリアの王エウリュトスは、弓の名手として、そしてヘーラクレースやオデュッセウスといった著名な英雄たちの物語に深く関わる人物として、その名を残しています。
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