エクセルシアー重突撃戦車

エクセルシアー重突撃戦車：戦場の貴公子、そして幻の戦車

第二次世界大戦下、イギリス軍はドイツ軍の戦車に対抗するため、新たな戦車の開発に躍起になっていました。その試みの一つが、エクセルシアー重突撃戦車です。その名はラテン語で「気品がある」「優れている」を意味する単語に由来しており、イギリス軍の期待の高さがうかがえます。

誕生の背景：ディエップの戦いからの教訓

1942年8月、ディエップの戦いはイギリス軍にとって苦い経験となりました。この戦闘で、既存のチャーチル歩兵戦車と巡航戦車の性能に限界が見えたのです。チャーチル歩兵戦車は機動力が不足し、クロムウェル巡航戦車は装甲が薄く、ドイツ軍の戦車相手に苦戦を強いられました。さらに、アメリカ製戦車の高い信頼性と汎用性も、イギリス軍にとって魅力的な要素でした。

これらの戦訓を踏まえ、イギリス軍は歩兵戦車と巡航戦車の役割を兼ね備える新たな戦車を必要としました。こうして「突撃戦車」という概念が生まれ、イングリッシュ・エレクトリック社がクロムウェル巡航戦車をベースとしたエクセルシアーの開発に着手することとなります。

開発：二つの試作車両と性能

1943年11月、最初の試作車両であるA試作が完成しました。この車両は、アメリカ軍のM6重戦車のサスペンションを流用し、クロムウェル戦車の車体と砲塔をベースに装甲を強化。前面装甲は114mmに達し、長砲身の6ポンド砲を搭載していました。スタッフォードでの1,600kmの試験走行では、最高速度38km/hを記録しました。

続く試作2号車（B試作）は、A試作とは大きく異なる構造を持ちました。クロムウェル巡航戦車の走行装置を改良したR/L式懸架装置（ロールス・ロイス社開発）を採用したのです。しかし、この懸架装置はM6重戦車のサスペンションに比べて脆弱であることが判明します。B試作では、装甲の追加とQF 75mm砲の搭載が予定されていましたが、懸架装置の問題が量産化への大きな障壁となりました。軽量化されたC試作も計画されましたが、B試作の不振から製作は中止されました。

量産中止：期待と現実の乖離

エクセルシアーの量産計画は、結局キャンセルされました。その理由は複数あります。まず、初期型のチャーチル戦車の欠点であった防御力と火力は、改良によって改善されました。また、クロムウェル巡航戦車の装甲強化も進み、近い将来エクセルシアーと同等の防御力を持つ見込みがありました。

さらに、アメリカから大量のM4中戦車が供給されることになったこと、イングリッシュ・エレクトリック社の生産能力が限界に達していたことも、量産中止の決定に影響を与えました。戦時下、イギリス軍は一刻も早く戦車が必要でしたが、生産能力と資源には限りがありました。突出した性能を持たないエクセルシアーを生産するよりも、既存の戦車の改良やアメリカからの輸入に注力する方が現実的だったのです。

そして現在へ

エクセルシアーは量産されず、実戦に参加することはありませんでした。しかし、試作2号車は現在、イギリスのボービントン戦車博物館に展示されており、その姿を見ることができます。幻の戦車となったエクセルシアーですが、その開発の歴史は、戦時下のイギリス軍の苦悩と技術開発の努力を物語っています。

ゲームへの登場

エクセルシアーは、『World of Tanks』『World of Tanks Blitz』『War Thunder』『トータル・タンク・シミュレーター』といったゲームに登場し、多くのプレイヤーにその存在を知られています。これらのゲームを通して、この幻の戦車の性能を仮想的に体験することができます。

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