エジプト十字架の謎

エジプト十字架の謎：クリスマスの惨劇から始まる、巧妙な連続殺人事件

エラリー・クイーンの長編推理小説『エジプト十字架の謎』は、国名シリーズの第五作として1932年に刊行された傑作です。ウエストヴァージニア州の静かな田舎町を舞台に、クリスマスの朝、衝撃的な事件が発生します。T字路の道標に、首を切られT字型に吊るされた死体が発見されたのです。さらに、ドアには血で書かれたTの文字が残されていました。

この異常な死体の発見に、エラリー・クイーンは捜査を開始します。彼は、T字型がエジプト十字架、もしくはタウ十字架を思わせることに気づき、事件に隠された象徴的な意味を探ります。捜査の過程で、エラリーは裸体主義者の預言者に疑いの目を向けますが、決定的な証拠をつかむことができず、事件は迷宮入りへと陥ってしまいます。

それから半年後、舞台はロングアイランドに移ります。新たな殺人事件が発生し、犠牲者は同様に首を切られT字型に吊るされていました。犯行方法は同一でありながら、依然として犯人の正体は不明瞭です。捜査は難航し、エラリーは手詰まり状態に陥ります。

しかし、再びウエストヴァージニア州で発生した第四の殺人事件において、状況は一変します。現場に残されたわずかな手がかりから、エラリーはついに犯人の正体に迫ります。犯人の大胆なトリックと、その動機が明らかになるにつれて、物語はクライマックスへと向かいます。

エラリーは、車や飛行機を駆使し、犯人を追跡します。その追跡劇は、アメリカ大陸を舞台に展開され、手に汗握る緊迫感に満ち溢れています。そしてついに、シカゴで犯人を追い詰めることに成功します。

この作品の魅力は、緻密に仕掛けられた謎解きと、スリリングな展開だけではありません。エラリー・クイーンの卓越した推理力と、犯人の巧妙な策略、そして事件の背後に潜む人間の業が、読者に深い印象を与えます。クリスマスの静寂を破る残虐な殺人事件、そして犯人を追いかけるエラリーの執念深い捜査は、まさにミステリ愛好家にとってたまらない魅力に満ちています。

作品は、犯人当てというミステリの根幹をなす要素に加え、象徴的なモチーフであるエジプト十字架の巧妙な利用、そして犯行の巧妙さなど、様々な謎が散りばめられています。これらの謎を解き明かす過程において、読者はエラリーと共に事件の真相に迫っていくことになるでしょう。

『エジプト十字架の謎』は、高い評価を受けている作品です。エラリー・クイーン・ファンクラブ会員によるランキングでは3位にランクインし、2005年の『ジャーロ』の海外ミステリー・ベストテンでは9位、また『週刊文春』の「東西ミステリーベスト100」においても高い評価を得ています。田中西二郎氏は、この作品を「悲劇四部作に入れて、『Tの悲劇』としてもよいほどの傑作」と絶賛しています。1953年には『宝石』誌に平井喬氏による翻訳が掲載され、広く日本の読者にも親しまれてきました。

『エジプト十字架の謎』は、ミステリとしての完成度の高さだけでなく、その独特の世界観と、読者の想像力を掻き立てる魅力的な物語によって、多くの読者を魅了し続ける名作と言えるでしょう。 エラリー・クイーン独特の語り口と、緻密な構成は、現代においても色褪せることなく、読者にスリリングな体験を提供してくれることでしょう。

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