エジプト第29王朝

エジプト第29王朝

古代エジプトの歴史において、「末期王朝時代」と呼ばれる期間に位置する第29王朝は、その四番目の支配勢力とされています。この王朝は、紀元前398年に興り、紀元前380年に終焉を迎えるまで、わずか18年間という短い期間しか存続しませんでした。王朝の都は、ナイル川デルタ地帯の都市メンデスに置かれました。

王朝の成立

第29王朝の始まりは、紀元前398年、ネフェリテス1世が前王朝である第28王朝の唯一の支配者であったアミュルタイオスを打倒したことに遡ります。ブルックリン美術館に保管されているパピルス文書の記録によれば、ネフェリテス1世は野戦においてアミュルタイオスを打ち破り、その後メンフィスの地で彼を処刑したとされています。こうして権力を掌握したネフェリテス1世は、新たな王朝を開き、メンデスをその首都と定めました。

短命な支配者たちと内紛

創始者であるネフェリテス1世の死後、第29王朝は深刻な王位継承争いに見舞われます。対立する二つの派閥が出現し、一方はネフェリテス1世の息子ムティスを支持しましたが、もう一方は王位を奪ったとされるプサムティスを擁立しました。この争いはプサムティスの勝利に終わったものの、彼の治世はわずか一年という極めて短い期間で終わりを迎えます。

プサムティスを打倒して王位に就いたのは、ハコルという人物です。彼は自身がネフェリテス1世の孫であると主張しました。ハコルの治世は、アケメネス朝ペルシア帝国によるエジプト再征服の試みに対する抵抗という性格を強く帯びていました。

外部との関係と抵抗

ハコルは、外部からの支援を得ることに成功します。彼は、当時ペルシアに対抗していたギリシャの主要都市国家アテナイや、同じくアケメネス朝に対して反乱を起こしていたキプロス王エヴァゴラスと同盟を結びました。これらの外部勢力からの支援（ただし、アテナイからの支援は紀元前387年に締結された「アンタルキダスの和約」以降は変化しました）は、ハコルがアケメネス朝の度重なる侵攻の試みに対して、比較的効果的に抵抗を続ける上で重要な要素となりました。彼の治世下では、エジプトはある程度の独立を保つことができていたと言えます。

王朝の終焉

しかし、ハコルの抵抗も長くは続きませんでした。彼の息子であるネフェリテス2世が父の跡を継いで王位に就くと、この若い支配者は父が築き上げた政治的・軍事的基盤を維持することができませんでした。弱体化した王権は、内外部からの圧力に耐えきれず、紀元前380年、ネフェリテス2世が退位させられる（あるいは打倒される）ことによって、第29王朝はその短い歴史に幕を下ろしました。この後、エジプトは短期間ながら第30王朝の支配を受けることになりますが、最終的には再びアケメネス朝の支配下に戻ることになります。

まとめ

第29王朝は、内紛による不安定さや、アケメネス朝からの絶え間ない圧力といった特徴を持つ、末期王朝時代の動乱を象徴する存在です。短い期間ながらも、ハコルのように外部支援を得て独立を守ろうとした支配者もいましたが、構造的な弱さを克服するには至らず、迅速にその歴史を終えることとなりました。

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