エスキモーコシャクシギ

エスキモーコシャクシギ：消えゆく小さな旅鳥

エスキモーコシャクシギ( Numenius borealis) は、チドリ目シギ科に属する鳥類です。かつては、カナダを繁殖地とし、冬になると遥か南米のアルゼンチンやチリへ渡って越冬するという、長距離移動を行う鳥として知られていました。しかし、近年その姿は非常に稀となり、絶滅の危機に瀕している鳥の一種となっています。

小さな体に秘めたる旅

全長29～34cm、翼を広げると81～85cmほどの、比較的小柄な鳥です。上面は濃い茶褐色、下面は淡黄色の羽毛で覆われており、飛んでいる姿は、翼の先端が尾羽よりも後ろに伸びる特徴的なシルエットで確認できます。その小さな体からは想像もつかないほど、何千キロメートルもの距離を移動していたのです。

特徴的なのは、下方に湾曲した長い嘴です。この嘴は、彼らが好んで食べる様々な食物を採るのに役立っています。

広範囲な生息域と食性

繁殖期以外の時期には、南米のパンパスと呼ばれる草原地帯を主な生息場所としていました。渡りの際には、草原、岩礁海岸、そして干潟など、様々な環境を利用していたと考えられています。大規模な群れを形成して生活し、昆虫や貝類、ゴカイといった無脊椎動物から、果実（ガンコウランなど）まで、幅広い種類の食物を食べていました。雑食性であることが、彼らの環境適応力の高さを示していると言えるでしょう。

ツンドラ地帯に営巣し、5～8月頃に4個ほどの卵を産みます。親鳥は、雛が成長し、旅立つまで献身的に世話をすることでしょう。

絶滅の淵に立つ鳥

かつては比較的普通に見られた鳥だったエスキモーコシャクシギですが、近年は、開発による生息地の破壊や乱獲によって個体数が激減しています。そのため、現在ではその生息状況は非常に不明瞭で、確実な繁殖地や越冬地も特定できていません。1992年の推定個体数はわずか約50羽とされ、絶滅寸前の状況にあります。近年は、まれに目撃例が報告されるのみで、その数は確実に減少傾向にあります。

エスキモーコシャクシギの現状は、人間の活動が野生生物に与える影響の深刻さを改めて私たちに突きつけます。彼らの未来を守るためには、生息環境の保護と、乱獲の防止といった対策が急務です。この小さな旅鳥の未来を、私たちの手で守る努力が求められています。

参考文献

小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』、講談社、2000年
『絶滅危惧動物百科6 サイ(スマトラサイ)―セジマミソサザイ』 財団法人自然環境研究センター監訳、朝倉書店、2008年

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