エステルハージの聖母

エステルハージの聖母

『エステルハージの聖母』として知られるこの絵画は、イタリアの巨匠ラファエロ・サンツィオによって1508年頃制作されました。作品は油彩で表現され、聖母子と幼児の洗礼者聖ヨハネが描かれています。この絵画の名は、ハンガリーの貴族ニコラウス・エステルハージのコレクションに由来しており、現在はブダペスト国立西洋美術館に所蔵されています。未完成であるものの、その保存状態は良好です。さらに、ウフィツィ美術館には本作品の習作素描も存在しています。

作品の内容

絵画には、聖母マリアが膝をついている様子と岩の上に座る幼子キリストが描かれています。幼児の洗礼者聖ヨハネが聖母の隣に膝をつき、右手に持つ紙片を熱心に見つめています。画面右側の幼子キリストはこの紙片を指さし、聖母マリアは息子が転がり落ちないように支えながら、洗礼者聖ヨハネを見つめています。背景には古代ローマのネルウァのフォルムの遺跡が見え、その景観が作品に深い感情を与えています。

ラファエロのこの作品は、フィレンツェ時代の後期か、ローマ時代初期に位置づけられます。この頃、彼はしばしば聖母子の作品に洗礼者聖ヨハネを取り入れ、人物の姿勢によって内面を表現しようと試みました。本作においても、聖母の複雑な身体の動きが特に注目されます。彼女が幼いキリストを支えようと身を乗り出す一方で、頭は反対の方向を向いており、全体として聖母を中心にしたピラミッド型の構図を構成しています。この独特の構造は、レオナルド・ダ・ヴィンチの芸術に対する深い研究の成果でもあります。

また、聖母の姿勢は古代彫刻『しゃがむヴィーナス』からの影響を受けており、洗礼者聖ヨハネのポーズはミケランジェロの『聖家族』の幼児イエスから着想を得ています。

制作過程

未完成の本作では、ラファエロの制作過程を窺い知ることができ、特に肌の部分では下絵を確認することができます。ウフィツィ美術館にある習作素描と、作品に描かれた人物像はほぼ一致しています。習作にはネルウァのフォルムの遺跡は描かれておらず、後に追加されたことが分かります。ラファエロは、習作の中心点を左にずらして板絵の中心にしたほか、画面左側を広げて背景にネルウァの遺跡を追加しました。習作は転写用の穴が開けられていて原寸大の下絵として使われており、表面にはスタイラスで引かれた線が見られ、彼がウルビーノ時代に習得した数学的技法を用いて精緻な素描が行われたことを示しています。

来歴

本作品の制作背景や最初の所有者については未確認ですが、知られている最古の所有者はローマ教皇クレメンス11世です。彼はこの絵画をエリザベート・クリスティーネに贈り、その後、彼女からカウニッツ伯爵に譲渡されました。エステルハージがこの作品を所有したのは1812年で、その後ハンガリー政府に売却されました。この時のコレクションには、630点の絵画に加え、3500点の素描、5万点の版画が含まれています。

盗難事件

1983年、ブダペスト国立西洋美術館から本作を含む7点の絵画が盗まれる事件が発生しました。このとき『エステルハージの聖母』の価値は2000万ドルと推定され、事件の被害総額は10億436万フォリントに及びました。国際刑事警察機構（インターポール）が介入し、窃盗犯は1984年に逮捕され、絵画は無事に回収されました。ただし、輸送中に損傷がありましたが、最終的には美術館に戻されました。この事件を描いたドキュメンタリー映画『オペレーション・ブダペスト』も制作され、関心を集めています。

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