スタイラス

スタイラス：古代から現代まで続く筆記具の進化

スタイラスは、尖った棒状の筆記具で、インクなどを用いずに素材に押し当てて筆記する道具です。古代においては、粘土板や蝋板に文字や図を刻むために用いられ、材質は金属、骨、象牙、葦など多岐に渡りました。ギリシャ語の「柱」を意味する言葉に由来し、長い歴史の中で様々な文化圏で使われてきました。古代ローマでは蝋板への文字刻印に、メソポタミアやクレタでは粘土板に、南アジアや東南アジアでは貝葉に文字を刻むために用いられていました。日本においても、紙などに文字を刻む角筆という同様の筆記具が存在しました。

用途によって「尖筆」や「鉄筆」など、異なる呼び名も用いられてきました。[版画]]のエングレービングにも使用されますが、こちらはビュランと呼ばれ区別されています。現代では、タッチパネル式の携帯情報端末]やスマートフォン、タブレットなどの[[ポインティングデバイスとして広く知られるようになりました。

現代のスタイラス：タッチパネル操作の必需品

現代におけるスタイラスは、タッチパネル内蔵機器を操作するためのポインティングデバイスとして進化しました。PDA、タッチパネル付きノートパソコン、タブレット、携帯ゲーム機などに付属し、画面上のボタン操作や文字入力、手書き入力などに使用されます。先端は比較的柔らかい合成樹脂製で、インクを用いた筆記とは異なる機構となっています。

スタイラスの構造は、柔らかい塩化ビニル樹脂などの先端と、金属製やプラスチック製の持ち手から構成されます。携帯情報端末への収納を考慮し、本体に収納できるサイズや伸縮式のもの、ストラップホール付きのものなど、様々な製品が存在します。中には、端末のリセットスイッチ操作のための機構を内蔵したスタイラスもあります。

筆記用具との融合

近年では、スタイラス機能を追加した筆記用具や、ペン先を交換することでボールペンをスタイラスとして使用できる製品も登場しています。これらは、スタイラスとしての使用を前提としているため、代用品使用による問題（画面への傷など）の発生が少ないという利点があります。

画面保護とスタイラス

スマートフォンやタブレットの普及以前は、抵抗膜方式タッチパネルが一般的でした。この方式では、画面への傷が操作性を著しく低下させるため、スタイラスの使用が推奨されました。スタイラスは画面への傷を防ぐ上で重要な役割を果たしていました。しかし、代用品として筆記具のキャップを付けたものや爪楊枝などを用いることもありましたが、専用スタイラスと比較して画面を傷つけるリスクが高いため推奨されませんでした。

UIとスタイラス：操作性の向上

初期の携帯機器向けOSは、指によるタッチ操作を前提としたデザインではありませんでした。抵抗膜方式タッチパネルの特性上、スムーズな操作にはスタイラスが不可欠でした。例えば、Windows Mobile 6.1以前のUIはパソコンと同様のデザインで、小さなボタンやバーを正確に操作するにはスタイラスが必要でした。Palm OSのGraffiti入力もスタイラスが必須でした。Windows 8以前の抵抗膜方式タッチパネル搭載製品でも、スタイラスが必要とされる場面が多くありました。

タッチペン：静電容量方式タッチパネル対応

2012年以降、「タッチペン」や「スタイラスペン」として、スマートフォンやタブレット向けの静電容量方式タッチパネル対応スタイラスが広く普及しました。静電容量方式タッチパネルは指による操作が主体となり、スタイラスの需要は減少しましたが、手袋着用時や爪が長い場合、文字や図画の手書きなど、特定の用途では依然として有用です。静電容量方式タッチペンは、抵抗膜方式タッチパネルでは使用できません。

その他のスタイラス

レコードの原盤に溝を刻む刃物、再生用のレコード針なども「スタイラス」と呼ばれます。また、紙へのエンボス加工、カーボン[[紙]]による転写、粘土などの柔らかい素材の彫塑など、様々な用途で使用されています。インクをつけて細い線を描くスタイラスもあります。スタイラスの歴史と多様な用途は、その進化の過程を如実に示しています。

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