エスメラルダ号火炎瓶投擲事件

エスメラルダ号火炎瓶投擲事件

エスメラルダ号火炎瓶投擲事件は、1975年7月23日に沖縄県国頭郡本部町で起こったテロ行為である。この事件は、当時のチリのピノチェト軍事政権に対する強い抗議の意図を持ったものであり、その背景には国際的な人権問題があった。事件の中心となったエスメラルダ号は、チリ海軍の練習艦であり、その存在は「浮かぶ大使館」とも称されていた。1943年に進水し、世界各国の港に寄港する一方で、反体制派に対して拷問の場として使用されることもあった。

事件の経緯

事件が発生したのは午前4時40分頃で、犯人はモーターボートを使って沖縄国際海洋博覧会のエキスポポートに接近した。停泊中のエスメラルダ号に向かい、火炎瓶を2本投げつけた。当初、1本は甲板で燃え上がり、仮眠していた乗組員2人が負傷した。もう1本は幸運にも早期に消火され、他の船舶への被害は避けられた。こうした迅速な対応にもかかわらず、犯行者はすぐに逃走した。

事件後、沖縄県警察は近隣の渡久地新港を捜索し、不審なボートを発見した。ボートからは使用された火炎瓶やエンジンの熱が確認され、犯行が明らかになった。その後、捜索が続けられ、ずぶ濡れの男が捕まり、犯人として逮捕された。

負傷者2人は自衛隊機で病院に搬送され、治療を受けることになった。チリ政府はこの事件が日チリの友好関係に影響を与えないことを表明し、事を大事にしようとはしなかった。

犯人の正体

事件の主犯は後藤賢二（当時24歳）。彼は島根県出身の学生で、沖縄に移住していた。後藤は沖縄に来る前に大学で学んでいたが、授業料未納のために除籍処分を受け、日雇い労働で生活をしていた。彼は海洋博に対し強い反対の意志を示し、「沖縄の人がやらないのなら自分がやる」といった意見を持っていた。特定の政治団体には属していなかったが、ノンセクト・ラジカルな活動家として知られていた。

事件の直前、後藤は一時本土に帰郷しており、その後、再度沖縄に戻るとともに、レンタルボートを探していた。特定の標的としてエスメラルダ号と三菱グループの三菱海洋未来館があり、エスメラルダ号への攻撃は軍事政権に対する抗議で、三菱海洋未来館への攻撃は「死の商人」との関わりを問題視したからである。事件の40分前には、別の公衆便所が爆破される事件も発生しており、これも後藤の仕業とされた。

1976年10月27日、那覇地方裁判所は後藤に対して懲役8年の実刑判決を言い渡すこととなった。この事件は、国家権力に対する市民の反発と、国際的な人権問題に対する意識を高めるきっかけとなった。

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