エトムント・フェーゼンマイヤー

エトムント・フェーゼンマイヤー：ナチス・ドイツの外交官とホロコースト

エトムント・フェーゼンマイヤー(1904年-1977年)は、ナチス・ドイツの政治家であり、親衛隊少将として第二次世界大戦中に重要な役割を果たしました。経済学の博士号を持つ彼は、ナチス政権下で外交官として活躍する一方、ホロコーストへの関与という暗い影を背負う複雑な人物です。

生い立ちとナチス党入党

フェーゼンマイヤーは、1904年、ドイツの学校教師の子として生まれました。ミュンヘン大学で政治学を学び、その後経済学の講師を務めるなど、学究的な経歴を歩みます。しかし、1932年にはナチス党に入党。その後、親衛隊にも入隊し、ナチス政権の中枢へと近づいていきます。特に、経済問題研究委員会（ケプラー委員会）での活動を通じて、経済界とのつながりを強め、政権内の地位を盤石なものにしていきました。

オーストリア併合と東欧での活動

1937年には、オーストリア併合を巡る重要な任務に就きます。オーストリアのナチス指導者の排除に関与し、ウィーンを拠点にオーストリア企業を監督しました。その後、アンシュルス後もオーストリア大使として留任し、ドイツの外交政策に深く関与しました。

東欧では、リッベントロップ外相の指示の下、様々な秘密工作に従事しました。チェコスロバキアのブラチスラヴァやポーランドのダンツィクに派遣され、親独政権の樹立や、ポーランド侵攻への工作活動を行いました。さらに、アイルランドの中立化工作にも関与しています。

1941年には、クロアチアに派遣され、ウスタシャ政権を支援しました。この期間、クロアチア独立国におけるユダヤ人やパルチザンの迫害、殺害に深く関与したとされています。

ハンガリーでのホロコーストへの関与

1943年から1944年にかけては、ハンガリーに派遣され、摂政ホルティ・ミクローシュの動向を監視しました。ホルティの枢軸国離脱の動きを察知したフェーゼンマイヤーは、ヒトラーに軍事介入を報告し、ハンガリー占領に貢献しました。

1944年3月、彼はハンガリー駐在特使に任命され、事実上のドイツによる支配を確立しました。この期間、彼はハンガリーのユダヤ人を大量に強制収容所へと送る計画を主導しました。彼の電報には、数十万人のユダヤ人がドイツに送られたことが記録されており、ホロコーストにおいて重要な役割を果たしたことが明らかになっています。この活動は、国家保安本部のカルテンブルンナーにも報告されていました。

戦後の裁判と晩年

終戦後、フェーゼンマイヤーはアメリカ軍の捕虜となり、ニュルンベルク裁判とは別の裁判で、犯罪組織の構成員としての罪で有罪判決を受けました。当初は20年の禁固刑でしたが、後に減刑され釈放されました。

釈放後、彼は西ドイツの右翼団体に加入したとされ、その後フランス企業で勤務しました。1977年にドイツで死去しました。

結論

エトムント・フェーゼンマイヤーは、経済学者としての経歴からナチス政権に身を投じ、外交官として活躍しながら、同時にホロコーストに関与した複雑な人物です。彼の経歴は、ナチス政権の組織的なユダヤ人迫害の恐ろしさと、個人がいかにして大規模な犯罪に関与し得るのかを改めて示すものです。彼の生涯は、歴史研究において重要な視点を与えてくれます。

参考文献

Reitlinger, Gerald, The SS – Alibi of a Nation, Viking (Da Capo reprint), New York 1957 ISBN 0-306-80351-8
(German-language biography) Igor-Philip Matic: Edmund Veesenmayer. Agent und Diplomat der nationalsozialistischen Expansionspolitik. Oldenbourg 2002, ISBN 3-486-56677-6.
Eckart Conze, Norbert Frei, Peter Hayes, Moshe Zimmermann: Das Amt und die Vergangenheit. Deutsche Diplomaten im Dritten Reich und in der Bundesrepublik*. Karl Blessing Verlag, München 2010, ISBN 978-3-89667-430-2.

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