エトロフ発緊急電

『エトロフ発緊急電』

佐々木譲による小説『エトロフ発緊急電』は、日系アメリカ人スパイと彼の周囲の人々の運命を描いた作品である。第二次世界大戦の前夜、緊張が高まる日本の動向を探るために潜入したスパイの視点から、戦争がいかにして人々の人生に影響を及ぼすかを浮き彫りにしている。この作品は、新潮社の「新潮ミステリー倶楽部」から1989年に出版され、後に多くの賞を受賞した。

あらすじ

物語は、日系アメリカ人スパイのケニー斉藤が日本に潜入するところから始まる。彼は日本海軍の動向を探るために、憲兵に追われつつも東京からエトロフ島へと向かう。スパイ活動という危険な任務を抱えながらも、彼は偶然出会った駅逓の女主人、岡谷ゆきと深い関係を築いていく。ゆきもまた、許されざる背景を持ち、様々な迫害を受けてきた人物である。

お互いに複雑な背景を抱えた二人は、愛情を深めていくものの、戦争の影響が彼らを次第に引き裂いていく。物語は、彼らを取り巻く人々──犯罪者や懲罰を受ける憲兵、さらにはケニーの仲間や恋人たちとの関係性を通して、戦争という恐ろしい現実を描写してゆく。特に、金森という韓国系アメリカ人との友情や、憲兵の秋庭との緊迫したやり取りは、物語に緊張感をもたらす。

登場人物

• - ケニー斉藤：主人公のスパイ。日系アメリカ人で、幼少期に夢を抱いた弁護士の道を断念。戦争を経て、スパイとして訓練を受け、使命感に燃える。しかし、スパイ活動の中で出会ったゆきとの恋に葛藤する。
• - 岡谷ゆき：エトロフ島の駅逓女主人。ハーフである彼女は、自身の出生から来る差別と対峙しながら生活している。ケニーとの関係が彼女の運命に大きな影響を与える。
• - 金森：アメリカ側のスパイとして活動する韓国人。彼は自身の背景を持ちながら、日本で活動する中でケニーと深い絆を結ぶが、悲劇的な運命に見舞われる。
• - ロバート・スレンセン：アメリカ人宣教師であり、スパイとしての役割も持ち合わせている。彼はケニーに必要な支援を提供し、物語の中で重要な人物の一人となる。

テレビドラマ化

この小説は、1993年に『エトロフ遥かなり』としてNHKによりテレビドラマ化され、全4回にわたり放送された。ドラマでは、原作の緊迫するストーリーラインが際立ち、視聴者に強い印象を残した。キャストには永澤俊矢や沢口靖子などが名を連ね、原作の深みを忠実に再現している。更に、2023年には再放送され、再び多くの視聴者から注目を集めた。

受賞経歴

本作はその文学的価値が認められ、いくつかの著名な賞を受賞している。第3回山本周五郎賞や第8回日本冒険小説協会大賞を始め、さまざまな文学賞に輝いており、その評価は今なお高い。

『エトロフ発緊急電』は、単なる戦争小説に留まらず、愛や友情、裏切りといった普遍的なテーマを貴重な視点から描いており、多くの人々に深い感動を与える作品である。

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