エドゥアルト・シュトラウス1世

オーストリアの著名な音楽家一家、シュトラウス家の一員であるエドゥアルト・シュトラウス1世（1835年 3月15日 - 1916年 12月28日）は、作曲家そして指揮者として活動しました。ワルツ王として知られるヨハン・シュトラウス2世と、早逝した才能あふれるヨーゼフ・シュトラウスの末弟にあたり、一家の四男としてウィーンに生まれました。その整った容姿から「ハンサム・エディ」という愛称で呼ばれたといいます。

父ヨハン・シュトラウス1世は、エドゥアルトが幼い頃から愛人との生活を始めており、本宅をほとんど訪れなかったため、エドゥアルトは父親の顔をほとんど知らないまま育ちました。1848年革命の際には、政治的な騒動に関与した父や兄たちとは対照的に、当時13歳だったエドゥアルトは母アンナとともに修道院に避難しています。

当初、父の意向で弁護士の道に進むことも検討されましたが、高校で語学の才能を開花させたエドゥアルトは外交官を目指すようになります。ラテン語やギリシア語に加え、フランス語、イタリア語、スペイン語などを習得し、東洋アカデミーへの採用も決まっていました。しかし、息子が遠方へ赴くことを案じた母アンナの強い反対にあい、外交官への道を断念することになりました。

音楽家としての歩み

外交官の道を諦めた後、エドゥアルトは兄ヨハン2世の熱心な勧めにより音楽家へ転向します。当時の楽団で奏者が少なかったハープをはじめ、通奏低音、ピアノ、ヴァイオリンなどを学びました。当初は「ハープの習得で一定の収入が得られるだろう」という打算もあったようです。1855年、兄ヨハン率いる楽団の一員としてハープ奏者としてデビュー。1861年には指揮者としても舞台に立ちました。

シュトラウス家では、兄ヨハン2世とヨーゼフの陰に隠れがちでしたが、作曲家としても約300曲の作品を残しています。特にポルカ・シュネルを得意とし、『テープは切られた』や『速達郵便で』といった作品は現在でも親しまれています。作品の安定した質には定評がありましたが、兄たちのような爆発的なヒット作は少なく、楽譜出版に苦労することもあったようです。しかし、オーケストラの統率力に関しては、兄たちよりも数段優れていたと評価されています。

宮廷舞踏会音楽監督と家族関係

1870年に母アンナと次兄ヨーゼフが相次いで亡くなると、長兄ヨハン2世は気力を失い、長年務めていた栄誉ある宮廷舞踏会音楽監督の職を辞します。この職は1872年にエドゥアルトに引き継がれ、彼は約30年間にわたりオーストリアの宮廷舞踏会の音楽を担いました。

しかし、ヨハン2世との関係は常に良好だったわけではありませんでした。ヨハン2世が突然演奏会に現れて指揮を代わったり、エドゥアルトが引き受けるはずだった仕事を他人に任せたりするなど、その言動に対しエドゥアルトは不満を抱くことも多く、兄弟の間にはしばしば緊張が見られました。また、ヨハン2世の遺言では、エドゥアルトは「恵まれた境遇にある」として相続権を与えられず、エドゥアルトが財政難に陥った後もヨハン2世の態度は変わらなかったことから、二人の溝は深かったと推測されます。

エドゥアルトはマリア・クレンカールトと結婚し、二人の息子をもうけました。長男ヨハン・シュトラウス3世は後に音楽家としてデビューしています。

引退と楽譜焼却

1899年に兄ヨハン2世が死去した後、エドゥアルトは自身の作品がちょうど300曲に達したことを節目に、翌1900年に引退を表明しました。1901年には、父ヨハン1世の時代から70年以上にわたって続いたシュトラウス楽団を解散し、宮廷舞踏会音楽監督も退任します。この決断には、ウィーンの新聞による批判や、長年一家を支えてきたことへの不満、自身の名前を無断で使用するオーケストラの出現などが影響したとされています。

引退後の1906年には回顧録『回想』を出版し、その中で次兄ヨーゼフと交わしたという「社会契約」について記しています。これは、生存者が故人の楽譜の権利を取得し、音楽活動を終える際に第三者の手に渡るのを防ぐために全て破棄するという取り決めでした。そして、この契約に基づき、エドゥアルトは1907年10月22日、一家がオーケストラの演奏に使用していた大量の楽譜をウィーンの工場で焼却処分するという衝撃的な行動に出ます。一家の自筆譜だけでなく、他の作曲家の編曲譜を含むその総量は膨大で、当時の批評家からは「ウィーンの歴史の一部を灰にした」「比類なき音楽の宝物を盗んだ」と強く非難されました。しかし、幸いなことに、多くの作品は既にピアノ譜として出版され、写譜業者によるコピーも存在していたため、作品の大半は失われずに現在に伝わっています。

死去、遺産、そして再興

第一次世界大戦のさなかの1916年 12月28日、エドゥアルトは81歳でその生涯を閉じました。ウィーン中央墓地に埋葬された彼の亡骸は、自身の遺言に従い、宮廷舞踏会音楽監督の制服を着用したままだったといわれています。兄たちの系統が途絶える中、エドゥアルトの系統が唯一、シュトラウス姓を現代に伝えています。そして、彼が解散させたシュトラウス楽団は、孫にあたるエドゥアルト・シュトラウス2世によって1966年に再興され、今日までシュトラウス作品の演奏を続けています。

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