エドガー・ハワード・スターティヴァント

エドガー・ハワード・スターティヴァント：ヒッタイト語研究のパイオニア

エドガー・ハワード・スターティヴァント (1875年-1952年) は、アメリカを代表する言語学者の一人です。彼の名を不滅のものとしたのは、何と言ってもヒッタイト語研究における卓越した貢献です。古くから存在が知られていたものの、解読が困難だったヒッタイト語に挑み、その言語構造やインド・ヨーロッパ語族との関連性を解き明かしていきました。その成果は、比較言語学という分野に大きな影響を与えました。

イリノイ州からイェール大学へ：学究の軌跡

スターティヴァントは1875年、イリノイ州ジャクソンビルで生まれました。イリノイ・カレッジを経てインディアナ大学を卒業後、シカゴ大学で博士号を取得。ラテン語の文法に関する研究で学位を得た彼は、その後インディアナ大学などで教鞭をとりながら、言語学研究を深めていきます。1907年にはコロンビア大学に講師として迎えられますが、大学の改組に伴い職を失うという経験もしました。しかし、彼の才能は埋もれることはありませんでした。1923年、イェール大学に招かれ、教授の地位にまで上り詰めます。イェール大学では、言語学教授として後進の指導にあたると共に、精力的に研究活動を行いました。1943年に退官後も、ニューヨーク市立大学ハンター校で教鞭をとり続けました。1952年に他界するまで、言語学への情熱を燃やし続けました。

ヒッタイト語研究：新たな地平を切り開く

スターティヴァントの研究活動において、最も重要なのはヒッタイト語の研究です。ヒッタイト語は、解読が完了したばかりの、当時としては非常に新しい言語でした。スターティヴァントは、この未開拓の分野に果敢に挑み、数々の論文を発表しました。彼の研究は、ヒッタイト語の語彙集、文法書、そして文例集といった形で結実し、後世の研究者たちに多大な影響を与えました。なかでも『ヒッタイト語比較文法』は、彼の代表作として知られています。

特に注目すべきは、彼が提唱した「インド・ヒッタイト語」仮説です。この仮説は、アナトリア語派（ヒッタイト語を含む）とインド・ヨーロッパ語族の他の言語との分岐時期に関するものです。この説は、現在では必ずしも広く支持されているわけではありませんが、比較言語学の議論に大きな貢献を果たしたことは間違いありません。また、クリウォヴィチやバンヴェニストらの喉音理論に対しても、当初は反対の立場を取っていましたが、後に熱心な支持者へと転じたという経緯も興味深い点です。

教育者としての貢献

スターティヴァントは、優れた研究者であると同時に、熱心な教育者でもありました。アメリカ言語学会の創立メンバーの一人であり、会長も務めた他、夏季言語学研修会の最初の指導者も務めています。このように、彼は言語学界の発展に多大な貢献を果たしました。彼の著作は言語学入門書として高く評価されており、後進の育成にも尽力しました。

スターティヴァントの遺産

エドガー・ハワード・スターティヴァントは、ヒッタイト語研究の先駆者として、そして教育者として、言語学界に大きな足跡を残しました。彼の業績は、現代の言語学研究の基礎を築く上で重要な役割を果たしており、彼の研究は今もなお多くの言語学者たちに影響を与え続けています。彼の生涯と研究は、言語学という学問の奥深さと、探求心によって未来を切り開くことの大切さを教えてくれます。

主要な著作

Linguistic Change: An Introduction to the Historical Study of Language (1917)
An Introduction to Linguistic Science (1942)
The Pronunciation of Greek and Latin (1920, 1940改訂)
A Hittite Glossary (1931, 1936, 1939補遺)
A Comparative Grammar of the Hittite Language (1933, 1951改訂)
Hittite Chrestomathy (1935, ベヒテルと共著)
* The Indo-Hittite Laryngeals (1942)

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