アナトリア語派

アナトリア語派：古代アナトリアの消えた言語たち

アナトリア語派は、現在のトルコ共和国を含む古代小アジア（アナトリア）で話されていたインド・ヨーロッパ[[語族]]の言語群です。紀元前2千年紀から紀元前1世紀頃にかけて使用され、現在ではすべての言語が消滅した、いわゆる死語となっています。

アナトリア語派の特徴

アナトリア語派は、他のインド・ヨーロッパ[[語族]]の言語とは異なる独特の特徴を持っています。言語学者クレイグ・メルチャートの研究によると、その特徴は以下のようにまとめられます。

一人称単数代名詞: 母音「u」を含む（例：ヒッタイト語の ammug）。
指示代名詞: 「あれ」を意味する obó- の存在。
動詞の派生: 「与える」という動詞が「取る」という動詞から派生している。
命令法三人称: -u が付加される。
分裂能格: 特に古ヒッタイト語では、能格が9番目の格として存在する。
接語の発達: アクセントのある語の後ろに複数の接語がつく。
接続語の必要性: 最初の文を除き、接続語が文頭にまたは接語として必要。
喉音の保存: インド・ヨーロッパ祖語で理論的に予測されていた喉音が一部保存されている。
古い形態論的特徴: ヒッタイト語の ešḫar（属格 ešḫnas）「血」に見られるようなr/nの異語幹曲用など、非常に古い特徴が見られる。
性・数の制限: 名詞の性は生物と無生物の区別のみで、男性・女性の区別はない。双数も存在しない。
動詞の活用: 他のインド・ヨーロッパ諸語とは大きく異なり、アオリストや接続法、希求法などは存在せず、近代語に見られるような迂言法が発達している。

アナトリア語派の諸言語

アナトリア語派には、多くの言語が含まれます。主要な言語としては以下が挙げられます。

ヒッタイト語: 紀元前16世紀から13世紀にかけてヒッタイト帝国の公用語として使用された。ヒッタイト人の先住民が話していたハッティ語とは系統が異なる。
パラー語: アナトリア中北部で話され、ヒッタイト語と同時期の資料が少量残る。
ルウィ語: アナトリア南部からシリア北部にかけての地域で使用された。楔形文字ルウィ語と象形文字ルウィ語が存在する。
リュキア語: 鉄器時代のリュキア地方で使用され、ルウィ語の子孫言語と考えられる。
ミリア語: リュキア語の方言とされていたこともあるが、確認できる碑文は1つのみ。
* リュディア語: アナトリア西部のリュディア地方で使用された。

ルウィ語、リュキア語、ミリア語は特に密接な関係があり、ルウィ語群として分類される場合もある。さらに、カリア語、ピシディア語、シデ語などもアナトリア語派に属する可能性が示唆されているものの、確証は得られていない。

アナトリア語派の起源と消滅

アナトリア語派の起源については、インド・ヨーロッパ祖語からの分岐時期や地域に関して様々な説があります。古くは「インド・ヒッタイト語」仮説もあったが、現在は否定されています。現在では、インド・ヨーロッパ祖語から最も早く分岐した言語群であるという説が有力です。起源地についてはアナトリアとする説や黒海北岸とする説などがあり、確証を得るには至っていない。

アナトリア語派は、紀元前4世紀のアレクサンドロス大王による征服以降、ヘレニズム文化の影響を受け、紀元前1世紀頃までに消滅したと考えられています。ただし、ピシディア語に関しては西暦紀元後にも使用されていたという証拠がある。アナトリア語派の消滅は、インド・ヨーロッパ[[語族]]においてはトカラ語派を除けば、知られている限り初めての事例です。

現在でも、一部の地名などにわずかながらアナトリア語派の痕跡が残っていると考えられています。

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