エドマンド・スペンサー

エドマンド・スペンサー：エリザベス朝を彩る詩人

エドマンド・スペンサー(1552年頃-1599年)は、16世紀のイングランドで活躍した著名な詩人です。エリザベス1世の治世という華やかな時代を背景に、その才能を開花させました。彼は仕立て職人の家に生まれ、ロンドンのマーチャント・テイラーズ・スクールで教育を受け、その後ケンブリッジ大学ペンブルック・カレッジに進学しています。

アイルランドでの経験と宮廷での苦難

1570年代、スペンサーはアイルランドへと赴任。アイルランド総督であるアーサー・グレイに仕え、そこで勃発したデズモンドの反乱に巻き込まれ、イングランド軍に加わって戦いました。反乱の鎮圧後、アイルランド再征服に貢献した功績により、マンスター植民で没収されたコーク県の土地を与えられています。この地では、後の探検家として名を残すウォルター・ローリーとも交流がありました。

スペンサーは、自身の詩作を通して宮廷での地位獲得を目指し、『妖精の女王』を携えて宮廷に接近を試みました。しかし、女王の第一秘書であるバーリー男爵と対立したことが、彼の宮廷での成功を阻むことになります。作品に対する報償も、1591年の年金のみという結果に終わりました。バーリー男爵は、詩作への報償に反対し、その価値を軽視する発言さえしています。

アイルランド情勢と晩年

1590年代初頭には、『アイルランドの現状に対する見解』という散文の小論文を執筆しています。しかし、この作品は、その扇動的な内容のためか、スペンサーの存命中においては出版されませんでした。この小論文では、アイルランドの固有の言語や習慣が破壊されなければ、イングランドによる完全な支配は不可能であるという主張がなされています。

1598年、九年戦争においては、アイルランドの反乱軍によって住まいを焼かれ、幼い子供を失うという悲劇に見舞われます。地方の言い伝えによれば、彼の妻もこの際に命を落としたとされています。この出来事が、彼の晩年に影を落としました。

翌年、1599年、スペンサーはロンドンで貧困の中で亡くなりました。46歳という若さでその生涯を終えた彼は、詩人仲間たちによって埋葬され、多くの弔いの品々と共に、彼の棺には数多くのペンや詩が投げ込まれたと伝えられています。

詩作における特徴と主要作品

スペンサーの詩作の特徴として、古風な言葉遣いを用いている点が挙げられます。これは、ジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』などの作品から影響を受けたものと考えられています。特に、『祝婚歌』は、英語で書かれた作品の中でも高く評価されている代表作の一つです。この詩は、スペンサー自身の結婚式を祝して書かれたもので、365行という構成は1年の日数に、68行という短い行数は1年の週数、月数、季節の合計に対応しているなど、精緻な構成がなされています。

スペンサーは、『スペンサー詩体』と呼ばれる独自の韻文形式を確立しました。これは、イタリアの詩形や中世の詩形からの影響も示唆されており、『妖精の女王』を始めとする多くの作品で用いられています。この詩形は、後の詩人たちにも影響を与えましたが、スペンサーの死後は衰退し、19世紀になって再び脚光を浴びることになります。

主要作品

スペンサーは多岐に渡る作品を創作しましたが、その代表作として以下の作品が挙げられます。

『羊飼いの暦』(1579年)
『妖精の女王』(1590年、1596年、1609年)
『瞑想詩集』(1591年)
『アモレッティ』(1595年)
『祝婚歌』(1595年)
『アイルランドの現状管見』(1596年頃)

これらの作品は、それぞれ異なるテーマや形式で書かれていますが、スペンサーの独特の詩的才能と深い思想が反映されています。彼の作品は、現在でも世界中の読者によって愛読され、エリザベス朝時代の文学を代表する貴重な遺産として残されています。

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