エドワード・コルストンの像

ブリストル・コルストン像：奴隷貿易と社会正義の狭間で揺れた銅像の物語

1895年、イギリス・ブリストル市の中心部に、エドワード・コルストンを称える銅像が建てられました。コルストンは17世紀の商人であり、慈善活動でも知られていました。しかし、彼の巨万の富の源は、大西洋奴隷貿易への関与であり、その事実が次第に明らかになるにつれて、像は物議を醸す存在となっていきました。

コルストンと大西洋奴隷貿易

コルストンは、王立アフリカ会社役員として、数万人のアフリカ人を奴隷としてアメリカ大陸に輸送する大西洋奴隷貿易に深く関わっていました。彼の莫大な資産は、この残虐な行為によって築かれたものです。一方で、彼は故郷ブリストルに数々の慈善事業を行い、アルムスハウス、病院、学校などに多大な寄付をしました。この慈善活動が、彼に対する肯定的な評価を生み出した一因でもあります。

像の建立と指定建造物

銅像は、彫刻家ジョン・キャシディによって制作され、ポートランド石の台座の上に設置されました。台座には、コルストンの人生や海の情景を表すレリーフ彫刻が施され、その完成は、ブリストルの市民によって盛大に祝われました。1977年には、イギリス指定建造物にも指定され、歴史的価値が認められていました。

賛否両論と撤去要求

20世紀後半には、コルストンの奴隷貿易への関与が改めて問題視され始めました。彼の慈善活動は、自らの宗教的・政治的見解に合致する者たちのみを支援するものであったという批判も上がりました。像の撤去を求める運動は1990年代から活発化し、像の台座には何度も落書きがされました。また、芸術家によるインスタレーション作品を通して、その負の歴史を改めて問う試みも行われました。

2020年のBLMデモと像の破壊

転機は2020年に訪れました。ジョージ・フロイドの死をきっかけとしたBlack Lives Matter（BLM）運動の高まりの中で、ブリストルでも抗議デモが行われました。その最中、コルストンの像はデモ隊によって倒され、港に投げ込まれました。この行為は世界中に衝撃を与え、人種差別問題と歴史的遺産の在り方に対する激しい議論を巻き起こしました。

像の回収と博物館展示

像はその後回収され、落書きのついたままブリストルのM Shed博物館に展示されることとなりました。この展示は、単なる歴史的遺物の保存ではなく、イギリスにおける大西洋奴隷貿易への関与と向き合う、重要な契機となりました。歴史家のデイビッド・オルソガは、この像が「ヴィクトリア朝末期の平凡なパブリック・アート」から「イギリスの大西洋奴隷貿易における役割とねじれた関係を物語る、イギリスで最も重要なアーティファクト」へと変化したと述べています。

反応と議論

像の破壊に対しては、さまざまな反応がありました。政府高官からは非難の声があがる一方で、ブリストル市長は、像の撤去に損失感はなく、博物館での展示を支持しました。BLM運動支持者からは、像の破壊は正当な行為であったとする意見も出ました。この事件は、イギリス社会における人種差別問題への意識を高め、歴史の解釈と公共空間におけるモニュメントの在り方について、改めて議論を促すきっかけとなりました。像の展示後も、その将来や適切な展示方法について、議論は続いています。

結論

エドワード・コルストン像の物語は、単なる銅像の顛末ではありません。それは、奴隷貿易という暗い歴史と向き合い、社会正義と歴史的遺産の保存という複雑な問題を浮き彫りにした出来事です。この事件は、人種差別と不平等に対する取り組み、そして過去と未来の橋渡しをどのように築くかという、重要な課題を私たちに突きつけています。

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