エドワード・ワズワース

エドワード・アレクサンダー・ワズワース

イギリスの画家、エドワード・アレクサンダー・ワズワース（Edward Alexander Wadsworth, 1889年10月29日 - 1949年6月21日）は、20世紀前半のイギリス美術界において、前衛的な活動を展開した重要な芸術家です。

生涯と初期の教育

ワズワースは1889年、ウェスト・ヨークシャーのクレックヒートンに生まれました。学問の道に進み、エディンバラでの修学を経て、1906年からはドイツのミュンヘンで工学を学びます。しかし、ミュンヘン滞在中に画家ハインリッヒ・クニルが主宰する画塾で絵画の基礎を習得し、芸術への関心を深めました。イギリスに戻った後、ウェスト・ヨークシャーの工芸学校を経て、ロンドンの名門スレード美術学校に入学します。この時期、彼は後に著名な画家となるスタンリー・スペンサーをはじめ、C・R・W・ネヴィンソン、マーク・ガートラー、ドーラ・キャリントン、デビッド・ボンバーグといった、同世代の才能ある学生たちと共に学びました。

前衛芸術運動への参加

美術学校卒業後、ワズワースは芸術家としてのキャリアを歩み始めます。1912年には、ロジャー・フライが企画した第2回ポスト印象派展に自身の作品を発表しました。この頃、彼は画家のパーシー・ウインダム・ルイスと知り合い、深い友情を結びます。ルイスを中心に起こった新しい芸術運動、後にヴォーティシズムと呼ばれるようになる動きにワズワースは傾倒し、未来派の展覧会にも作品を出品するようになります。1913年にはイタリアの未来派の提唱者であるフィリッポ・トンマーゾ・マリネッティと会いますが、マリネッティの高慢な態度に多くのイギリスの芸術家と同様に幻滅したとされています。1914年7月にはルイスのグループに参加し、ヴォーティシズムの設立を宣言するマニフェストに署名しました。この宣言は機関紙『BLAST』に掲載されますが、その発表から程なくして第一次世界大戦が勃発。ヴォーティシズムの展覧会の準備が進む中、賛同者が戦死するなど、戦争は前衛芸術運動にも暗い影を落としました。

戦時下の貢献：ダズル迷彩

第一次世界大戦が始まると、ワズワースはイギリス海軍予備部隊に志願兵として入隊します。ここで彼は、画家であるノーマン・ウィルキンソンと共に、革新的な艦船迷彩技術「ダズル迷彩（眩惑迷彩）」の開発に携わりました。これは、遠距離から敵が艦船の種類、サイズ、速度、進行方向などを正確に把握するのを困難にすることを目的とした迷彩で、幾何学的なパターンや鮮やかな色彩を船体に施すものでした。ワズワースは1917年に海軍を除隊するまで、200隻以上の軍用船の塗装を監督するという重要な役割を担いました。この戦時中の特異な経験は、その後の彼の芸術表現に大きな影響を与えることになります。

シュルレアリスムと「海のシュルレアリスム」

戦後、1920年代から1930年代にかけて、ワズワースの作風は大きく変化し、シュルレアリスムへと接近していきます。この時期の彼の絵画には、フランスの画家ピエール・ロワの作品を彷彿とさせるような、写実的な筆致で描かれながらも、日用品や風景の中に奇妙で非現実的な要素が唐突に現れるといった特徴が見られます。しかし、ワズワースの作品の中で特に注目されるのは、海を主題とした一連の作品群です。これらの作品は、彼のユニークなスタイルから「海のシュルレアリスム」と称されています。現実の海や海岸線の描写に、幻想的あるいは不条理なイメージが組み合わされており、独特の世界観を生み出しています。ブリストル美術館所蔵の1935年の作品《沖合い》や、個人蔵の1929年から1944年にかけて制作された《明朝》などが、「海のシュルレアリスム」を代表する例として挙げられます。こうした海への深い関心と、それを非現実的に表現する手法は、第一次世界大戦中に彼がダズル迷彩の開発を通じて艦船や海と深く関わった経験と無関係ではないと考えられています。戦争という極限状態での経験が、彼のシュルレアリスムへの移行とその独特な表現スタイルに繋がったと言えるでしょう。

エドワード・アレクサンダー・ワズワースは、ヴォーティシズムの先駆者としてだけでなく、戦時中の技術開発への貢献、そして戦後のシュルレアリスムにおける独自の探求を通じて、20世紀イギリス美術史において多様な顔を持つ芸術家として記憶されています。

もう一度検索