エドワード・S・モース

エドワード・シルヴェスター・モース：日本考古学の礎を築いたアメリカの博物学者

エドワード・シルヴェスター・モース（1838年6月18日 - 1925年12月20日）は、アメリカ合衆国の動物学者であり、日本における考古学・人類学の基礎を築いた人物として知られています。その功績は、大森貝塚の発掘調査、進化論の体系的な紹介、そして東京大学（当時は東京帝国大学）の発展への貢献など、多岐にわたります。

生涯と業績

モースはメイン州ポートランドで生まれました。幼い頃から自然科学に強い興味を示し、独学で博物学の知識を深めました。ハーバード大学比較動物学博物館でルイ・アガシーの助手として働き、軟体動物の研究に携わったことが、その後の研究活動の基礎となりました。

1877年（明治10年）、腕足動物の研究のため来日したモースは、横浜から新橋へ向かう汽車の車窓から大森貝塚を発見しました。彼は文部省からの依頼を受け、東京大学のお雇い教師として動物学・生理学を教えることになります。モースは、日本の大学の国際的な地位確立に尽力し、トマス・メンデンホールやアーネスト・フェノロサといった優秀な外国人教師を招聘しました。また、東京大学図書館の基礎を築くなど、教育・研究環境の整備に大きく貢献しました。

モースの業績として特筆すべきは、大森貝塚の発掘調査です。彼は、助手や学生たちと共に貝塚の発掘を行い、土器や石器、人骨などの貴重な遺物を発見しました。これらの発見は、日本の考古学研究の出発点となり、日本の古代史研究に大きな影響を与えました。モースは、発掘された土器を"cord marked pottery"と名付け、これが日本語の「縄文土器」という言葉の由来となりました。

また、モースは日本に初めてダーウィンの進化論を体系的に紹介した人物でもあります。彼は、東京大学での講義や講演を通じて、進化論の考え方を広め、日本の生物学研究に新たな視点をもたらしました。モースの進化論に関する講義は、『動物進化論』として石川千代松によって翻訳・出版され、広く読まれました。

モースは、日本の美術や文化にも深い関心を持ち、多くの民芸品や陶磁器を収集しました。これらのコレクションは、後にボストン美術館に売却され、現在も貴重なコレクションとして保存されています。また、モースは日本での生活や見聞を詳細に記録した日記『Japan Day by Day』を執筆し、当時の日本の様子を生き生きと伝えています。

モースは、1879年に東京大学を退職した後も、日本への関心を失うことなく、たびたび来日しました。彼は、日本の考古学、生物学、美術、文化など、様々な分野において多大な貢献を果たし、日本とアメリカの学術・文化交流の架け橋となりました。

人物像とエピソード

モースは、非常にユニークな人物でした。左右の手で別々の文章や絵を描くことができる両手両利きであり、その才能を活かして、講演会では両手にチョークを持って黒板にスケッチを描き、聴衆を魅了しました。また、モースはユーモアに富んだ人物であり、その講演は常に聴衆を笑わせ、楽しませました。

モースは、日本の教育・研究の発展に尽力した功績により、日本政府から勲三等旭日中綬章、勲二等瑞宝章を授与されました。関東大震災で東京帝国大学図書館が壊滅した際には、自身の蔵書全てを寄付することを遺言するなど、晩年まで日本への深い愛情を示しました。

結論

エドワード・シルヴェスター・モースは、日本の考古学、人類学、生物学、美術など、多岐にわたる分野において多大な貢献を果たした、偉大な博物学者でした。彼の業績は、今日においても高く評価されており、日本とアメリカの学術・文化交流の象徴として、その名は永く記憶されることでしょう。

モースの残した足跡は、大森貝塚の保存や、大田区とセイラム市の姉妹都市提携など、様々な形で現代に受け継がれています。埼玉県熊谷市の石上寺には彼の銅像が設置され、その功績を称えています。

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